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京都は古くて新しい街。変わっていないようで、常に変わり続けている。
古いものがあたりまえのようにあり、新しいものがつぎつぎにできている。
そんな京都の魅力にはまった人たちを、同じく京男になったデザイナー上野昌人さんがレポート。

□京都迷店案内 その壱 kit (上京区河原町丸太町上ル東側)

2018-12-10

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 その店は河原町丸太町交差点の北東、老舗洋食屋の「東洋亭」と若者に人気のタイ料理屋「パクチー」に挟まれてひっそりと営業している。その静かな佇まいは、ついこの間までシャッターのおりたままの洋品店であったからでもある。そのシャッターを上げていると一体何のお店ができたのか、怪訝そうに覗き込む人や、バスの窓越しに眺めている人も多いと聞く。
 それもそのはずで、この雑貨店とも古本屋とも思しきお店の主は、かつて恵文社一乗寺店の副店長であった椹木知佳子さんなのだから。恵文社一乗寺店といえば本好き少年少女のメッカでもあり、その生活館とギャラリー・アンフェールはオシャレな雑貨を扱うお店として、女性誌やサブカル誌でも引っ張りだこである。その売り場責任者として展示会の企画・展示・販売を、またバイヤーとして活躍していたのが椹木さんなのである。 

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 その椹木さんが関西外語大学を卒業したあと、知的障碍者専門の家庭教師になった。ちょっと意外な気もするが、hard workerだったという。その経験が後に大きく影響しているようである。
 そして知人の紹介で恵文社一乗寺店に勤めることになる。行かれたことがある方は分かると思うのだが、とてもモダンなレンガ作りの素敵なお店だ。サブカルチャーやアート、文学に特化したいわゆるセレクトショップのはしりの店である。そこで椹木さんは一つのビジネスモデルを作る。今では書籍と雑貨のコラボレーションは珍しくないが、ただのモダンな本屋から「文化やライフスタイルを売る」店に発展させた功績は非常に大きい。彼女はいう。「私は雑貨好きというよりはモノを売るのが好きなんだと想います」と。そして8年の勤務ののち、2012年に退社、独立する。


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 実は彼女の叔母さんにエミコ・サワラギ・ギルバートさんという方がいる。私は個人的にはその方と先に出会っているのだが、カナダのバーモントと京都と半々に住み、バーモントあるいは京都の時雨を描いたような線画がとても印象的な作家である。吉祥寺のある画廊で初めて見たとき、とても彼女の絵に惹かれた。その後いくつかの画廊で見る機会を得たが、私の好きな絵を描く方であった。珍しい名前なので、椹木さんにお目にかかった時「エミコ・サワラギ・ギルバートさんてご存知?」と聞くと、間髪を入れずに「叔母です」と答えが返ってきた。今は椹木さんがその家を出てしまっているのだが、龍安寺の側の桜の木が見事なお宅に住んでおられるそうだ。そのお家で椹木さんは育った。町家ではないが、とても古いが美しいものに囲まれた素敵な家だったそうだ。椹木さんとは昔から知っているような、不思議な感じがするのはその所為かもしれない。

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 それはお店である「kit」にも感じることで、初めて来たのに懐かしい気がするのは、単に古いものを扱っているからだけでなく、彼女の持つ時間と空間を超えたキャラクターかもしれないと想った。そしてそのルーツはその衣笠のお家にあり、「kit」はそこに繋がっているのかもしれない。今日もその魅力に惹き付けられた若者たちが、河原町丸太町の「kit」に集まる。「kit」の名前の由来は聞いていないが、そこに行けば「きっと」何かがあるかもしれない、と想わせる魅力があるからなのではないだろうか。