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京都は古くて新しい街。変わっていないようで、常に変わり続けている。
古いものがあたりまえのようにあり、新しいものがつぎつぎにできている。
そんな京都の魅力にはまった人たちを、同じく京男になったデザイナー上野昌人さんがレポート。

京都迷店案内その参 nowaki(左京区川端三条上ル一筋目東入)

2019-08-22

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nowaki(ノワキ)
京都市左京区川端通仁王門下る町新丸太町49-1 
TEL.075-201-8298
11:00~19:00 不定休につき要連絡
ウェブサイト http://nowaki3jyo.exblog.jp/

 大学に入学したのは遥か昔のことではあるが、ユネスコ研究会というサークル活動に在籍していたことがある。美人の先輩に勧誘され、田舎者にとっては初めての一人暮らしで心細かったのか、とても嬉しかったことを憶えている。それなりに楽しくはあったがいつしか違和感を感じて足が遠のいていったが、ただひとつ強く印象に残っていることがある。小学校低学年の子供たちと一緒に絵を描いた時のことだが、素晴らしい絵を描く子供たちがいたのだ。その内の一枚の絵には画面の中に5匹の蜻蛉が力強く描かれていて、その色彩といい、バランスといい絶妙な絵で今でも脳裏に焼き付いている。かなわんなぁ、と思った。時として子供の持ち合わせている感受性や無邪気さがとんでもない絵を描かせることがあるのだが、大人になると意外につまらなくなる場合も多いので、絵を描くということは本当に難しいと思う。描くことが上手くなると何か大切なものが無くなるということであろうか。荒井良二や長新太などの童画作家たちは、そういうものを無くさない人たちなのかと思うことがよくあった。

 知り合いの若い絵本作家の個展の案内状が届いた。nowakiという初めて聞く名前のギャラリーで開かれるとある。地図を見ると三条と仁王門通の間くらいであるが、私にはその辺りの土地鑑がほとんど無かった。東京への出張と日程が被っていて、京都に戻ってきた日が最終日で展覧会には間に合わなく残念な想いをしたのが昨年の5月のことである。それ以後も折にふれこのギャラリーからDMが届くので、行ったこともない処なので不思議でしようがなかった。ところがその謎はある日唐突に解けた。前回この稿でご紹介した直珈琲で再会したのが、nowakiの主人である菊池美奈さんとそのご主人だった。

 ご主人は東京の出版社で編集者をしていて、件の若い絵本作家の展覧会がお茶の水のギャラリーで開かれた時にお目にかかっていた。その時に奥さんの菊池さんもいらしていたのだ。素敵なカップルだなと感じていたが、その時に京都でギャラリーを開くかもしれないということ云っていたことをようやく思い出したのだ。迂闊であったが、その時話が繋がった気がした。

nowakiは町家に手を入れていて、一階がギャラリースペース、二階が住居になっている。京都で町家に住むことを選んだ理由を訊いてみた。菊池さんは茨城県大子町という自然のとても美しい町で幼少期を過ごしたそうだ。小学生の頃まで茅葺き屋根の家だったというから、とても立派な家だったのだろう。大学で国文学を学んだ後、就職先に古本屋を選んだのも面白いと思った。国立のみちくさ書店、西荻の音羽館、川崎の近代書房と古書業界では品揃えの豊富さと良質の古書を扱うお店ばかりだが、ここで菊池さんは働き、西荻に住んでいた。ちょうど高円寺に住んでいた編集者のご主人と出会うことになるのも、当然の成り行きであったのかもしれない。震災の影響で職場に通う不自由さと大阪に住むご主人のお父さんの介護が、関西移住を決断させたそうだ。いろいろな条件から京都を選んだのも必然であったし、今の町家とも出遭うべくして出遭った。ご近所には職人さんやモノ作りの方も多く、皆さんに親切にしてもらって本当に越してきてよかったと2人は口を揃える。そして開店してまだ一年のお店には、絵描きから焼きもの作家、出版関係者やクリエイティブに目敏い人たちがひっきりなしにやってくるのだ。

 2人は先頃TVの「情熱大陸」でも紹介されたミロコマチコや、デビューからあっと云う間に4冊も絵本を刊行したきくちちきなどの作家たちを無名の頃から応援していた。新しい才能を発掘し、発表の機会をつくり、一緒に育っていくという若いカップルならではの夫唱婦随、いや婦唱夫随の場でもある。菊池さんの子供の頃の記憶がこの町家に投影されているように、そこここに本や器や絵が昔からあったように馴染んでいる。ここを訪れる人たちはほっこりするというのもあるだろうが、まだ見ぬ新しい才能を発見しに来るのかもしれない。


nowakiの名前の由来はと訊ねると、季節を分ける野分(台風の古称)という意味から転じて、恵みをもたらす風という意味だそうだ。漢字だと京都ではシブ過ぎるのでローマ字で表記し、可愛いロゴマークは風の精を表わしている。「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」。枕草子の有名な一節ではあるが、まさにnowakiこそ「いみじうあはれにをかしけれ」かもしれないと思った。(上野昌人)