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京都は古くて新しい街。変わっていないようで、常に変わり続けている。
古いものがあたりまえのようにあり、新しいものがつぎつぎにできている。
そんな京都の魅力にはまった人たちを、同じく京男になったデザイナー上野昌人さんがレポート。

京都迷店案内その七 noma(左京区東大路仁王門東入)

2018-04-26

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gallery & select shop noma
京都市左京区岡崎円勝寺町36-1 TEL.075-752-7317
12:00~17:30 木・金・土・日曜営業

& noma cafe
京都市左京区岡崎円勝寺町36-1 TEL.075-752-3157
11:00~19:00 月曜定休
ウェブサイト

 私は20代の後半の何年かを銀座の制作プロダクションで過ごした。今から考えると信じられないが、若さに任せて睡眠も碌に取らず、3日ぐらい連続で徹夜ということなどもよくあった。埼玉の自宅から銀座に通うというのはかなりのカルチャーギャップがあって、いちいち驚くことばかりであったが当時の最先端のモードやアートに触れられたのはとても嬉しかった。会社は銀座6丁目のみゆき通りにあったが、残念ながら今ではもうない。銀座には、いくつもの著名な画廊があり、今から想えばすぐ側に洲之内徹の現代画廊も存在していた。私には敷居が高く、専ら良く行っていたのが資生堂ギャラリーであり、その頃強く印象に残っていた作家の一人にマッツ・グスタフソンがいた。それがおよそ30年前のことである。
 マッツはもともと「コム デ ギャルソン」や「ヨウジヤマモト」などモードのキャンペーンヴィジュアルを数多く手掛けてきたファッションイラストレーターである。当時はペーター佐藤などが人気であったが、私は水墨画のようなマッツのドローイングが好きだった。それが約30年の時を経て、京都でお目にかかることになるとは正直想ってもみなかった。それも知り合いのお店で。
 今村京美さんとは李青で出会った。李青は高麗美術館を創立した鄭詔文さんの娘の鄭玲姫さんのお店だ。今や京都のガイド本に載らないことはないほど有名なお店になっている。韓国茶やビビンパブなどの美味しい食べ物の数々と、韓国の草家を想起させる美しい室礼のお店だ。そこは、才能に溢れたクリエイティヴな人たちやお洒落な人たちが集う場であるが、その頃の今村さんは大学生のお嬢さんと高校生の息子さんがいる主婦であった。ある時その今村さんがご自分のお店を開かれると聞いてとても驚いた。何度かお話をする機会があり、その美へのこだわりは強く感じられたが、お店を開くということは大変なことなので正直大丈夫かなと想ったものだ。ところがいざお店が出来たというので行ってみると、私は今村さんのことを全く分かってなかったと想い知ることになるのである。
 今村さんは京都生まれで、お父さんはビロードなどの織物を作っていた。だいたい美にこだわりのある方は、家庭の中で美しいものに囲まれて育った人が多いのだが、今村さんのお父さんは仕事に熱心な方で、何かを収集するということは無かった。今村さんはモンゴメリの『可愛いエミリー』などを読みながら西洋に憧れる、どちらかというと大人しい少女であったという。ただ小学生の時には「宇宙と死」について妄想するような処もあり、好みもはっきりしていて、中学生の時にイノベーターのソファについていたスウェーデン国旗のクッションが欲しくて、父親にねだりソファごと買ってもらったりしていた。そんなタイミングで鄭さんと出会うことになる。朝鮮美術との出会いはもちろんであるが、鄭さんの美意識、生き方から影響を受けた、私もこんな素敵な大人の女性になりたい!と、想ったそうだ。結婚して初めて海外に行ったときも、自分の想像していた世界とほとんど変わりがなくてあまり驚かなかったというから、いかに今村さんの感受性や想像力が凄まじかったということだろうか。
 ヨーロッパ、特にイギリスが大好きでミッドセンチュリーも大好き。そしてここからが今村さんらしいと想うのだが、鄭さんに憧れながらもスタイルは自分流を貫き表現したい。それをカタチにしたものがnomaなのである。nomaにはエリック・ホグランやシグネのグラス、ベルント・フリーベリの磁器など、北欧の香りのするものとミッドセンチュリーのものが、日本や韓国の手仕事と見事に調和している。そこにnomaオリジナルの商品、例えば漆の村瀬治兵衛工房が企画した茶箱や、イギリス人アーティストJoe Hardy のロシアンドールとシルクスクリーンの版画、かみ添特製オリジナルのポストカードがあったりもする。とても今村さんの嗜好とセンスがはっきり反映されているのだ。
 暫くして隣のスペースが空いて、カフェも開くことになると聞いてまたまた驚くことになる。岡崎の仁王門通や冷泉通にはあまりゆっくりできる場所が無かった。カフェであるから美味しい珈琲が飲めるのはもちろんではあるが、季節の果物を使ったタルトや野菜料理は絶品である。どこで見つけてくるのか不思議なくらい、若くてセンスのいい女性たちが作る料理は本当に美味しい。さらに置いてあるアンティークのテーブルから什器に至るまで美しく、光が溢れる店内はまるでアンドリュー・ワイエスの絵画を観ているようだ。そしてここの壁にマッツ・グスタフソンの絵が架けられていてとても驚いた。京都の知り合いのお店でマッツのドローイングに再会するとはとても不思議であり、それを観るたびに30年前のことを想いだす。ある意味このドローイングが今村京美という人のすべてを表しているのかも知れないと想った。
 私がnomaに行くのは、美味しい珈琲とタルトを食べながら、マッツの絵を観ることが愉しみになっているからかもしれない。そして読書好きの妄想癖があった少女の夢のがここに結実し、それは単なる主婦の趣味の域をはるかに超えて、たくさんの人たちの創造力を刺激している。「私はただの主婦ですよ」と笑う今村さんであるが、その笑顔にだまされてはいけない。この人は美の確信犯なのであるから。

(上野昌人)