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京都は古くて新しい街。変わっていないようで、常に変わり続けている。
古いものがあたりまえのようにあり、新しいものがつぎつぎにできている。
そんな京都の魅力にはまった人たちを、同じく京男になったデザイナー上野昌人さんがレポート。

京都迷店案内その八*番外編 スターネット大阪~かぐれ(大阪市中央区瓦屋町)

2018-04-26

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かぐれ 大阪
中央区瓦屋町2-14-9 Tel.06-6761-7717
10:30~19:00 水曜日定休

ウェブサイト

 基本的にこの稿は京都に限定して書いているのだが、どうしても書き遺しておきたい大阪の店と人がある。その店も主人も残念ながら今はもう会うことができない。50余年も生きてくると当然のように幾つかの別れもあるが、今回はどうしても認めたくない別れである。そのお店はスターネット大阪であり、ご主人は馬場浩史さんである。
 私は47歳の時に脳梗塞を患った。幸運なことにほとんど後遺症も残らず、入院も三週間くらいで済んだので表面上は大きな変化もなかった。だがやはり自分の裡では変化が起きていたのだ。50を前にして残りの人生をどう生きてゆくのか自分自身に向き合わざるを得ない、そんなタイミングで馬場さんに出会ったのである。当時、雑誌『目の眼』400号記念の企画として『サヨナラ、民芸。こんにちは、民藝。』という本を作ろうとしていた。いろいろと人選を考えていく中で「スターネットの馬場さんに会うといいわよ」と、私が大変信頼している京都の方から薦められたのだ。馬場さんにはお目にかかったこともなく、モードの人だと想っていたので「どうかな?」と想う部分もあったが、未知の人に会うのは心躍るものなのですぐに連絡を入れた。それが切っ掛けで私の益子通いが始まることになるのだから、人生とは不思議なものだ。その時、なぜ民藝という切り口で馬場さんを紹介してくださったのか不思議だったのだが、その方には私が会いにゆく必然性があるということが見えていたのかもしれない。
 緑溢れるスターネット益子は、カフェといい山の食堂といい本当に美しい。スターネット東京は馬喰町という繊維の問屋街にあり、こぢんまりとしたハコではあるがとてもチャーミングお店だ。そんな中、最後まで大阪の街にアジャストしなかったスターネット大阪であったが、私は一番好きだった。もともと3.11で機能しなくなったスターネット益子のスタッフの仕事を確保すると同時に、お店で取り扱う作り手たちのために、スターネット大阪はオープンした。倉敷や丹波篠山や神戸など候補地はいくつもあったが、いろいろな条件の中、大阪が選ばれたのには訳がある。震災から一カ月以内にお店を開きたいという馬場さんの目標が先ず一番にあった。その時、大阪に住む馬場さんの知人から彼の祖父が営んでいた繊維問屋のビルを紹介してもらったのだが、その空間が馬場さんの気持ちにフィットした。ここでやろう、と。什器類は益子から運び、一カ月後には予定通りオープンした。眼を閉じるとオープンした頃のお店の様子が浮かぶ。左側の部屋には服や靴などのファッションと雑貨が、右の部屋には器を中心としたインテリアが並び、狭いが味のある階段を昇るとアンティークの家具に囲まれたカフェがあった。今から考えるとこの頃から無理が祟っていたのかもしれないが、東奔西走の日々であったに違いない。
 馬場さんが作りたかったものはお店でもギャラリーでもない。そこをよく誤解されていると感じるのだが、あくまでも場所は一般の人たちと交流する一つの媒体であって目的ではない。馬場さんが目指したのは、スモールサイズでの自給自足できる処ではなかったかと私は想う。一昨年の春頃はしきりに電気も自分たちで作れないものかとドイツ人の科学者に相談している話も聞いた。土祭(ひじさい)では非電化工房の藤村靖之さんを招いたり、土舞台のイベントではソーラーパネルを使って音響をまかっていた。馬場さんにとってスターネット益子や土祭は、目指したアルカディアの一つの形ではなかったか。どこも益子のようにはいかないだろうが、それぞれの土地の歴史や風土を見つめ直して、スモールサイズでの自給自足を目指す、そんな益子スタイルが全国に広がることを夢想していたのではないか、と私は想うのだ。
 私は人生で一番多感な時期を大阪で過ごした。愛着もあるが、今の大阪にはがっかりすることも多い。水の都と言われた大阪にはかつてサロン文化があり、煎茶も抹茶も盛んであったという。緑も東京より少ない。近代以降の古いビルも結構遺ってはいるが、基本的に新しくて華やかなもの、派手なものを求める傾向がある。穿った見方かもしれないが、目指す方向と真逆にある大阪にこそ、スターネットの種を蒔きたいと馬場さんは考えたのではないだろうか。スターネットが一旦役目を終えて益子に戻ったあと、アーバンリサーチがその意思を継いで「かぐれ」というお店を同じ場所に立ち上げた。オーガニック・コットンを中心にした服と天然素材の雑貨を扱うお店である。カフェもあり、かつてのスターネットの雰囲気も味わえるのでぜひお薦めしたい。
 民藝を突き詰めると人の生き方に辿り着く。私に馬場さんと会うことを薦めてくださった方は、そのことに気がついておられたのだろう。これからの日本にこそ、いて欲しい人が逝ってしまった。私には忘れられない場面がある。インテリアの専門学校の女子生徒が「センスが良くなるにはどうしたら良いですか?」と馬場さんに訊いた時のことだ。「毎日をひとつひとつ吟味しながら、丁寧に生きることじゃないでしょうか。その積み重ねが大切ですね」とゆっくりと応えたのである。合掌

(上野昌人)