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京都は古くて新しい街。変わっていないようで、常に変わり続けている。
古いものがあたりまえのようにあり、新しいものがつぎつぎにできている。
そんな京都の魅力にはまった人たちを、同じく京男になったデザイナー上野昌人さんがレポート。

京都迷店案内その弐拾壱 ナナクモ(宇治市宇治妙楽)

2018-12-10

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撮影・奥村達也



 京都に住民票を移してまだ7年ではあるが、それなりに思い入れのある場所がいくつかある。平安時代、それも藤原時代の木彫佛が好きな私にとっては平等院鳳凰堂というのはとても魅力的な場所だ。岩手県宮古市に浄土が浜というところがある。初めて訪れた時に、白い砂浜と剣の山と呼ばれる火山岩でできた入り江に海猫が飛ぶ景色は、まさに浄土というものを感じさせた。鳳凰堂を見た時にも意外に小さいなというのと同時に「もし浄土というものがあるならばこんな感じだろうか」と思ったりもした。まさに藤原氏の光と影を感じることができる大好きな場所である。リニューアルされてからは、がっかりするのが怖くてまだ鳳凰堂を観に行けていないのだが、金色に光る鳳凰がくすんでからとなると本当の浄土に行ってからになるのであろうか。行けたらの話ではあるが。

 このところ思いもよらず毎週のように、宇治に行く日々が続いている。それは仕事半分、プライベート半分なのではあるが私のような人間にとってはどちらでもあまり変わらないといったら、言い過ぎだろうか。宇治行きの大きな理由の一つは、友だちができたことである。できたというより、気がついたらすっかりその人柄に取り込まれていたのである。

 人たらし、という言葉がある。女たらし、というと聞こえが悪いが、人たらし、というと何だかカッコいい気がする。私も仕事柄写真家の方とお目にかかる機会は多いが、森善之さんと出会ってからはまだ3、4年の付き合いだ。仕事をたまにお願いするだけの関係なのだが、毎週のようにお会いしているので、10年以上つき合っているかのような錯覚をおこしそうになる。そう、私は森さんにすっかりたらされてしまったのである。以前この稿で取り上げさせて戴いた大阪の「iTohen」に用事があって伺った時に、ちょうど森さんの写真展をやっていた。今から考えると本当に不思議なことであるが、その時に森さんの撮った水の写真集の出版記念をかねた展覧会をやっていたのだった。私は森さんも森さんがどんな写真家であるのかも知らずじまいであったが、ワイルドな外見とは裏腹に繊細な写真を撮られていたことにとても驚いた。以後それをきっかけに東京や京都で会い、少しずつこの人懐っ濃い写真家の素顔を知り、取り込まれてゆくことになるのである。

 その頃すでに『JAPAN GRAPH』という雑誌を刊行していた森さんに、ある日相談があると呼び出された。この雑誌作りを手伝ってほしいという。『JAPAN GRAPH』はナナクモという森さんを中心に6人の写真家たちの集団が1年かけて1県づつ、その土地の風土や人々の暮らしを丁寧に取材・撮影して作られている雑誌である。印刷代を含めて全て自腹で賄って、すでに滋賀・岩手・愛媛・群馬・島根の5号が出ている。それがどんなに大変なことか、雑誌作りに関わった方なら想像がつくのではないだろうか。ご覧になった方ならお分かりになると思うが、素晴しい雑誌である。それぞれの写真家たちの文章も味わい深いし、写真はもちろんデザインも美しい。私が手伝えることなど何もないのである。それとなく固辞すると、宇治に『JAPAN GRAPH』の拠点を作るから何かアイディアはないか、という。売り言葉に買い言葉で、それなら毎月ゲストを呼んでサロンでもやったら、ということで「サロン・土・ナナクモ」というサロンをすることになったのである。ほとんど勢いというか弾みで始めたのだ。

 自分で言い出した手前、ゲストの選定と手配はほとんど自分でやらねばならない。気がつけば仕事の合間を縫って、宇治通いが始まった。ナナクモは京阪宇治からもJR宇治からも10分くらいの四軒長屋の一角にある。基本は『JAPAN GRAPH』のアンテナ・ショップなので普段は金・土・日・祝日しか開いていないが、『JAPAN GRAPH』とそれに関わった土地の手仕事などが置いてある。森さんが仕事で不在の時には、奥様の幸子さんがお店に立っているが、ついうっかりと私も口を滑らせて「一日店長でもやりますか?」と赤いエプロンなど着けてたまにお店に立っているから、我ながらおめでたいと思う。すっかり森さんご夫妻のお人柄に、たらされてしまっているのである。

 森さんは元々宇治生まれで、宇治で育った。子供の頃は近所の萬福寺が遊び場であったという。萬福寺は煎茶道のメッカでもあり、年に何度か煎茶の全国大会も開かれていて、私も何回か取材で伺ったことがあった。伽藍や扁額を始め、全てのスケールが大きく、中国の影響があちこちに垣間見える。法堂の横の細い道を抜けたところで、三角ベースをやっていたというから驚く。萬福寺と森さんの間にそんな縁があったこととは全く知らなかったのだが、私が昔から縁のあった大阪北浜のギャラリー風の泉井さんから連絡があり、来る5月1日から6日まで萬福寺でイベントをするという。ふだんは非公開の萬福寺・松隠堂で彫刻家・高須英輔さんの「歓天喜地」展が開かれる。それもご縁かと思い、5月2日にナナクモで作家の高須英輔さんにトークショーをして戴くことになった。これも森さんの佛縁であろうか、それとも佛さまも森さんにたらされてしまったのだろうか。

Books & folkart ナナクモ

宇治市宇治妙楽144 Tel.0774-21-8118

12:00〜17:00
金・土・日・祝日のみ営業
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