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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




konohana8b.jpg李朝徳利 高15.8cm 草紅葉(金水引草) 山菊








(8)草紅葉(金水引草)


 ぼくが古稀を迎えた時だから、16年も昔のことだ。5月の連休明けの誕生日に出発して、奥羽山脈を縦断する東北の旅を思い立った。桜が満開の弘前を振り出しに、八甲田に入ると雪また雪である。九州人には仰天の世界だ。でも、平野に近づくと新緑が燃えている。きっと秋の紅葉が鮮やかにちがいない。
 みごとに的中した。花巻空港を降り立ち、秋田との県境に近く、春のカタクリで有名な沢内村を根城に一週間、遠くは十和田湖まで足を伸ばした。あんな壮絶華麗な光景を九州で見ることはできない。以後、しばしば東北巡礼を重ねた。さて師走の花。いっそ九州は草紅葉でいこう。草紅葉なら木々の紅葉が散り果てたのちの、師走に入ってからがシーズンである。
 福岡は日本海の入口に位する。天候は裏日本形なのだ。冬は雲が低くたれこめ、小雪がちらつくことも珍らしくない。陰鬱である。でも、師走も中旬まではちょいちょい小春日和に恵まれる。そんな折、里山の南面して木枯らしが当たらない小路を歩くと、時にすてきな草紅葉に巡り遭える。左の写真をご覧ください。
konohana8a.jpg ひときわ紅く輝くこの草を見つけたとき、いったい何だろうと、しげしげ眺めた。金水引であることに気付くまで、しばし時を要した。夏から秋にかけて、黄色に輝く花穂を次々につける雑草、秋には実がズボンの裾にからんで、除くのに閉口する奴である。それが、こんなに美しく紅葉するなんて、初めて見た。黄色と山菊と併せて、ご紹介しよう。
 器は李朝。口の作りなどから察して、時代は初期に近い。その口には金繕いがあるし、胴に格別の景色もないから、気軽に買えた。いわば、ぼく同様の凡器である。同類だから、仲良くつきあっている。(福岡市在住)