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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




tanaka02.jpg錫茶筒 高10.1cm 山葵








(9)山葵(わさび)


 雪獄にたへて籠城沢内村。某新聞の俳壇から頂戴した句である。今冬は厳しかった。九州のあちこちでも最低気温の記録を更新した。東北・北陸はさぞや、と案じられる。冒頭、岩手県沢内村は毎冬豪雪が家屋を埋め尽くし、村民は雪の牢獄に幽閉されるという。「天牢雪獄」という言葉が生れたほどだ。 その沢内村は山野草の宝庫である。花巻空港から奥羽山脈に分けいって、秋田との県境に近い山村だ。残雪がtanaka3.jpg         座禅草消えた5月、村の林に近づいて立ち竦んだ。林道一面が片栗のお花畠である。山路をたどると、すぐにザゼンソウ(座禅草)に出遭う。これは序の口、次々と現れる山草の数々に息を呑むばかりだった。
 雪解けのせせらぎにかかった丸木橋を肝を冷やしながら渡ると、案内の地元の人が「これが山葵(ワサビ)ですよ」とあたり一面の沢に踏み込んで教えてくれた。びっしり自生しているのには驚いた。
 山葵といえば、刺身や鮨に欠くことができない日本の香辛料の代表だ。が、花をご存じの方は多くはあるまい。ご紹介しよう。九州では3月に咲く。福岡近郊なら、佐賀県境の脊振山系の清流で見ることができる。
tanaka01.jpg 器は錫の茶筒を使ってみた。何だか煎茶道の先生に叱られそうである。茶筒は中国製を尊しとするらしい。今回使ったのは佳品ともいえないものだが、稜の鋭い五弁輪花の筒が気に入って愛用している。
 実は、母は南画風の毛彫りがある壷型の茶筒を手元から放さず、目を細めて玉露を愉しんでいた。幼いぼくもお相伴に与っていたので、お茶とお菓子の味を覚えてしまったのである。80年も昔のことを憶い出す昨今だ。老いたなぁ。
(福岡市在住)