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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




HANA06251.jpg萱草(かんぞう)・山牛蒡(やまごぼう)








(10)萱草(かんぞう)


 梅雨の晴れ間に里山を歩くと、あちこちの路傍で橙黄色の花が目につく。萱草である。今回はそれを使ってみた。 萱草は中国からの伝来だそうだ。どうりで、里山でしか見たことがない。でも、それは遠い昔のことだろう。以前から夏の俳句に詠まれているのである。酷暑の昼下がり、この花に出合うと、つい見とれて暑さを忘れるので、忘草という別名もある。えっ、本当?それなら節電草とした方がいいよ、枝野さん。
 写真の花は、八重咲きだから藪萱草、一重だと野萱草と呼び別ける。が、ぼくは藪の中でこの花を見たことがない。もっぱら野っ原の花だ。萱草は朝咲いて夕方凋む。一日草である。ただ、一本の茎に沢山蕾をつけているから、採って一週間近く楽しめるのが嬉しい。
 器は、九州産の須恵器にした。ぼくは偏壷が好きだから、須恵の偏壷を3個ほど持っている。一つは緑釉が数条流れているから人は「ほぉ」という。が、壷の景色が花と競うから、写真の安物の方を愛用している。
 ところで、萱草が最近ずいぶん減った。探さないと採れなくなってきたのである。きっと圃場整備と農道改良、そして草刈機のせいにちがいない。こうして人間が便宜を計るたびに、貴重な野の花が次々消えていく。

hana06252.jpg高17.1cm そういえば、蛙やトンボなどが、蛍ほどではないにしろ、姿を見せなくなり始めている。多分、農薬のせいではあるまいか。田んぼに餌が減ったから、ツバメまであまり見かけなくなってしまっているのだ。

 これは極めて危険な徴候である。昆虫や鳥、メダカやフナのような魚、こんな人と共生してきた動植物が住めなくなってしまったなら、「野辺の骨董」は開店休業だ。まあ、それはどうでもいい。人間様も住めなくなるにちがいない。(福岡市在住)