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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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□□□□□□□□□□器:新羅 器高12.8cm






(11)杜鵑草(ほととぎす)


「ほととぎす」といえば、すぐに思い浮かべるのが、初夏を告げる渡り鳥である。
 目に青葉山ほととぎす初がつお(山口素堂)
 この鳥、意外とちゃっかり者で、卵を鶯(うぐいす)の巣に産み落とすと、知らん顔。うっかり者の鶯は、せっせと子育てに励んで巣立たせてやるという。ちゃっかりに、うっかり、天の配剤は絶妙だ。なにっ、人間にもよく似たちゃっかり者が居るって。天罰覿面だぞ。
 ところで、杜鵑草というのがある。やはり「ほととぎす」という。吾が庭みたいに日影の多いところによく育つ。茶花には、たおやかに垂れた茎先に、黒褐色に深紅を含む渋味の花を数輪つけたのが好適だ。この草も可愛がりすぎると、健康優良児みたいに巨大な花穂をつけて、使いものにならない。
 ぼくの好んで行く里山の斜面に、低く小さく育ったこの草の一群を見つけたときは驚喜した。蕾も数輪だけ。たぶん土地が瘠せているのだ。それから数年間は有り難く頂戴してきた。ところが、ある年の秋口、草刈機に一網打尽やられてしまったのだ。瘠地の劣等品種らしく、次の年には芽を吹く生命力が残っていなかった。悔しい。ぼくたちの花摘みは、来年の楽しみに茎の半分以上を残しておく習慣だ。
「山ほととぎす」という種類もある。少し高い山に出かけると、路傍で時折見かける。ぼくは、いつも由布山系の雨乞岳で採る。実情は、草に埋もれたこの花を見つける眼力では、カミさんの方が数等上だ。二人三脚で採るのである。

tanaka12-092.jpg雨乞岳に自生する山ほととぎす 左の写真の活けた花は、山の花好きの方から戴いたものだ。脊振山系北端の雷山の産だときく。山ほととぎすとしては、花付きも多く紅鮮やかなので御紹介する。器は平凡な新羅。この平凡さが花を活かしてくれるから、愛用している。
(福岡市在住)