onlineロゴ2.jpg

骨董・古美術・工芸のポータルサイトmenomeonline

よみものロゴ.jpg

皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




tanaka1002.jpg
□□□□□□□□□□器:李朝木工 口径18.6cm






(12)白木蓮の実


 数ある春の花のなかでも、ぼくは木蓮が大好きだ。それも白木蓮。「おい、お前さん、いよいよボケたな。今は秋だよ。何で春の花だい」。ご免、ご免。それは後でわかります。話を戻させて下さい。木蓮とは「木の蓮」である。寺に多い。それも白花に限るようだ。
 東大寺二月堂のお水取りが終わると、福岡へ取って返すのはもったいない。古寺巡礼と相い成る。常宿は志賀直哉旧邸の近くだから、先ず新薬師寺に詣でる。山門を入って左手の五重の石塔脇で白木蓮が開き始めていると、素敵だ。木は小さいが、石塔と併せ観るのが何よりである。秋の萩に劣らず美しい。
 もちろん、白木蓮は東大寺にもある。が、有名なのは秋篠寺である。こちらは大木で見事。見とれてしまう。だが、ふと思う。見事さと、素敵さは必ずしも比例しないのだ。非の打ちどころなく立派な女性が女房として素敵かどうか、考えてみるといい。あっ、脱線した。

tanaka1001.jpgぼくの通う里山にも、もちろん白木蓮はある。今は廃園になっている旧別荘の庭だ。四方に低く枝を垂れているから、素手で花が採れるのだ。
 えっ、盗むの・・・。なに、伸びすぎた枝を払ってやるだけだよ。だって、持ち主不明。咎める人なんてないのだもの。
 ある年、10月も末にふと寄ってみた。もう来春の蕾が、少し膨らみかけている。その木蓮の枝に、何と真赤な実が成っているではないか。木蓮の実なんて初めて見た。吾が家の庭の白木蓮も実を結んだことがない。亭主の人生と揆を一にしたのかなあ。
 器は李朝木工にした。手荒い轆轤引きぶりが野趣を添え、山の木の実にもってこいだ。(福岡市在住)