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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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□□□□□□□□□     □器:李朝徳利 






(14)満作(マンサク)


 初めてこの花を見たときは、びっくりした。これが花か。まるでヒゲじゃないか。もじゃもじゃの赤ヒゲ野郎である。
 これ、満作という。紅花はあまり見ない。ふつうは黄色なのだ。稔った稲穂を連想させる豊年満作。縁起のいい花である。このヒゲは花弁で、長さが1㎝あまり、花ひとつ4弁だ。これが集まって、一見ひとつの花となり、枝の節々に咲くから見映えがする。いささか素朴だが、如月の冬枯れに、さきがけて花をつけ、春の息吹を告げるので、茶花として重宝される。
 満作は中国名を金縷梅(キンロバイ)という。真ん中の縷は滅多に使わないが、「縷々(るる)と説明する」に使う縷だ。「こまごま」の意である。だから、黄金色の細かい花弁を持つ梅と同時期に咲く花の意と解される。
 これを漢字はたった3字で表現する。凄い。しかも、漢字という奴、読みと大意は同じでも、字によってニュアンスがみな違う。例えば「よろこぶ」は、喜、悦、慶などさまざまな字を当てるが、使い方を誤ると笑われる。厄介である。さらに、書くのを覚えるのにとても苦労する。

tanaka13-42.jpg その点、万葉仮名を経て「かな」を生み出し、漢字とコラボを組んで文章を綴る日本は、表意文字と表音文字の長所だけ生かして使う、たぐい稀な巧み技をみせた。特に、平安の和歌など、古筆の美しさは素晴らしい。日本が誇る文化の粋である。
 写真の満作は、いつもの背振山系の里山で採った。大木で花に手が届かない。折りたたみ式の杖を伸ばして枝に引っかけて摘んだ。ぼくの誇る妙技である。庭の白侘助と一緒に、愛用の中期李朝の徳利に活けてみた。(福岡市在住)