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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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器高16.2cm






(16)サギソウ


 「オレ、サギ草育てに懸命なんだ」。友人はカメラからメモリーを抜き出して、置いていった。なるほど、彼の庭はサギ草またサギ草じゃないか。ディスプレーを見るほどに、驚きあきれた。「オレオレ サギ」はよく聞くけれど、「オレ サギサキ」は初めてである。
 サギ草はラン科の多年草で、山野の湿地に自生する、と本には書いてある。だが、九重山系の湿原などで、この花を見つけたことがない。可愛い花だから、目につきやすいところに生えていると、欲深い花好きが採っていってしまうのだろう。保護の網を掛けておかないと、駄目なのだ。
 ぼくは一箇所だけ自生地を知っている。佐賀県は唐津に近い七山の湿原である。博多駅から地下鉄経由の唐津行きに乗り、虹ノ松原入口の浜崎駅で下車して、タクシーで40分ほど登ると、七山の樫原(かしばる)湿原に到着する。標高約600m。木道も整備されている。ここは「自然環境保全地域特別地区」に指定されている。えっ、その指定、も一度言ってみろって? 寿限無じゃあるまいし、二度と言えるものかっ!
 でも、この寿限無まがいの保護網のお蔭で8月上旬からお盆過ぎまで、約千輪のサギ草の花が楽しめるのである。

tanaka08-2.jpg 器は、ぼくにしては珍しく伊万里を出してきた。唐津にほど近い、樫原湿原に因んでのことである。この伊万里、沖縄出土なのだ。だいぶ以前のことだが、昔の見事な厨子甕と一緒に古伊万里が出回ったことがある。副葬品だ。墓に納めるときに、口の一部を欠いてある。が、伊万里も中期以前の作で、ものはいい。ぼくは、特にこの唐草紋が気に入って愛用している。オレ サギサギ君から失敬した花一輪に、撫子を加えて活けた。
 念のため申し上げる。決して詐欺草ではありませんぞ。鷺草です。(福岡市在住)