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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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器高8.2cm






(18)山火口(ヤマボクチ)


「雄山火口とは、いったい何だ?」、「火山・雄山の噴火口だろう」。残念! 間違いでした。花の名前である。オヤマボクチと読む。
 話は違うが、最近マッチを見なくなった。旧時代の産物。無用なのだ。10年ほど前までは、どこにでもあった。広告マッチには気の利いたデザインのラベルもあり、蒐集家さえいたほどだ。近々、扱う骨董屋も現れるだろう。
 実は、ぼくの生涯で、マッチが世の中から消えたのは、今回が二度目である。最初は終戦前後のことだった。戦争で火薬を使い果たして、マッチが製れなかったのである。
 では、当時はどうしたか。レンズで、太陽熱を集めた奴がいる。ぼくもその一人だ。紙は焦げても、焔には至らない。五輪の聖火を太陽から戴くのは、容易ではないのですぞ。
 いま一つの方法は、江戸時代の技術による。石英と鉄を打ち合わせると火花が散る。これを受けるには、柔らかい植物の繊維を束ね、焔硝に浸したものを使う。火花が繊維に移るのだ。この繊維束を火口(ホグチ)という。雄山火口は花がその火口に似ているわけである。
 晩秋の高原を歩くと、草の中に写真の花が顔を出しているのを、よく見かける。近畿以東は雄山火口、西の方は山火口と異なっている。とはいえ、同じ種類だから、区別がつけにくい。
 この花、夏は緑のいが栗坊主だが、秋ふけると、写真のような火口が赤紫の咲きどころを誇る。が、霜に打たれて倒れていくのだ。人生そのものと、そっくりではないか。
tanaka12-02.jpg 器は、買ったときは真っ黒に汚れていたが、お湯で濡らした布で拭くうちに、樺細工であることに気付いた。しめしめと、懸命に磨くと、艶々と輝く肌を見せてきた。これも、人生の一コマそっくりだな……。
(福岡市在住)