皆さま この花ご存じですか
田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)
高麗青磁 高14.2cm
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(21)山茱萸(さんしゅゆ)
庭の山茱萸の木が黄色い花を開き始めた。如月である。春一番も遠くはあるまい。 ところで、異変が起こったのである。晩秋につけた紅い実が残っているのだ。実と花が同居するなんて、例がない。きっと、ぼくが花も実もある見事な歳を重ねた御褒美にちがいない。
晩秋から初冬にかけては、渡り鳥のシーズンである。ぼくの家から、ものの5分も歩くと小山があり、市の公園になっている。中には動物園や植物園もあるが、大半は森である。だから野鳥が沢山来て、紅く熟した山茱萸の実をまたたく間に喰べ尽くしてしまうのだ。花の咲く頃は全くの枯木である。その野鳥がめっきり減ってしまったのだ。
この現象は、吾が家ばかりではない。以前は里山を歩くと、色々な野鳥に逢えた。集落では燕が舞い、少し山に登り始めると山鳥が羽音高く飛び立って、びっくりしたものである。早春に、昼のサンドイッチなど喰べていると、頭上で鶯がさえずり続けてくれることも、希ではなかった。が、今は昔の夢になってしまった。雀さえいないのである。
お蔭で失業者も現れた。案山子君である。さっぱり用がなくなってしまったから、今は案山子コンクールなんて開催して、農村の文化保存の対象になってきた。まさかユネスコ登録まではいくまい。が、とかく、この世は住みにくい。
晩秋の氷雨に濡れる山茱萸 器は高麗青磁の徳利である。比較的最近求めた。逸品にほど遠いのは、ぼくの眼のせいではない。財布君が無い袖は振れませんよ、と言っただけである。
こんちくしょう! 財布の奴め!! (福岡市在住)