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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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越前お歯黒壺 高12.3cm






(22)藪蘭


「お前さん、数え年なら今年90歳、卒寿だな。だいぶボケただろう。テストしてやる」。常連の悪友がいう。「花を採りにさんざん薮をうろついたはずだ。薮のつく名詞を5つ挙げてみろ」。「わけないさ」と、ぼく。
「先ずは食べもの、薮蕎麦。植物は薮椿。動物は薮蛇」、「ばかっ! そんな蛇いるものか」。「ごめん、薮蚊」。こんな失敗をすると、頭の中が真っ白になる。歳のせいだ。苦し紛れに「藪入」。「お前、藪入なんて戦前の習慣だ。死語になって半世紀以上たつぞ。大ボケだ」と、抜かしやがる。この一喝で思いつく。「薮医者」。やっと五つ揃った。
 二人とも歳をとると、薮医には懲りた経験がある。彼の言によると、薮医はまだましな部類で、困るのは土手医だそうだ。薮は透かせば何とか先が見えてくる。だが、土手だと先が真っ暗なのだ。
 医者の話はさておいて、植物に移る。この分野は意外に薮と名の付く花木が多い。薮柑子、薮茗荷……、薮は植物の宝庫なのだ。写真の蘭も薮でしか出遭えない。
 この蘭、5月頃花をつけ、秋には赤い実を結ぶ。手元の図鑑を手当たり次第調べたが見当たらない。植物に詳しい先生に尋ねると、「藪蘭」と即答された。はて、薮蘭といえば、秋口に薮の小径で紫色の花穂をつける蘭があるが、同名同姓なのかしら。威厳たっぷりの先生には、そこまで念を押しかねた。

たなか04-05-02.jpg器は越前のお歯黒壺を使った。お歯黒の歴史は古いが江戸時代、既婚婦人がみな歯を黒く染める習慣になって、普及した。この壺はその染料を容れた器である。どういうものか、お歯黒壺といえば、越前がひとり有名である。古いものは、胴から下が締まって格好いいが、ぼくのは若いから、お尻が巨大である。(福岡市在住)