onlineロゴ2.jpg

骨董・古美術・工芸のポータルサイトmenomeonline

よみものロゴ.jpg

皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




TANAKA14-07-01.jpg
粉引徳利 高13.1cm






(23)蛍袋(ホタルブクロ)


「蛍の光、窓の雪」といえば、ぼくの子供のころは、どこの学校でも卒業式の唱歌の定番だった。都市部には電気が来ていたが、ちょっと離れた山っ手の小集落などは、電線を引いてくれないランプ生活であった。蛍の光や、窓の雪明かりを頼りに、「ふみ読む月日重ねつつ」という歌詞は、ぼくたちに十分理解できたのである。
 現在では、高性能の電池やLEDが容易に手に入る。どこでキャンプしようと、灯火には心配ない。離島や僻地だって冷蔵庫やテレビも普及しているのだ。その一方で、蛍や雪は滅多にみられなくなってしまった。だから、とっくの昔に「蛍の光」は歌われなくなって、忘れられたに違いないと、ぼくは信じて疑わなかった。
 ところが、何と、いま大学生の孫でさえ、高校の卒業式でも歌ったというではないか。驚いた。「蛍の光、窓の雪」とは、「ふみ読む」の枕詞とでも解する以外ないのだなあ。
 さて、話を花に切り替えよう。写真の花は蛍袋という。好んで栽培されているから、ご存じの方も多いと思う。ぼくの写真の花は、里山で自生しているのを採ってきたものだ。この花、以前は蛍と同様、どこにでも自生していたらしい。子供たちが蛍を捕まえては、この花袋に入れて「やーい、提灯だぞ」と遊んだのが、命名の由来である。
TANAKA14-07-02.jpg ところで、山で自生しているのを採ってきて、吾が家に植えてみたら、2年目はメタボで頑強な栽培種に生まれ替わってしまった。あの恥じらいを含んでうつむく自生種の可憐な花はどこへやら。失望した。
 器は朝鮮の粉引徳利。とはいえ、昭和生まれのピッカピカの新品。使ううちに雨が洩ってきた。将来が楽しみである。(福岡市在住)