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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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(24)葛(くず)


 長月ともなると、何となく日ざしは和らいでくる。久しぶりに昼の里山に遊ぶと、荒地に生い繁った葛の葉が風に揺れて、白い葉裏を見せている。「葛の葉の・・」といえば、「うら」にかかる枕詞である。
 一陣の秋風が葛の原をよぎると、渚によせる白波のように、白い葉裏が緑の野辺を駆け抜ける。まさに、「目にもさやかに風わたるみゆ」である。そんな折、時に紫紅色の葛の花がちらりと見えることがある。
 春の藤とちがって、葛の花は滅多に採れない。花付きが少ないうえ、葛の大きな葉の陰に隠れて姿を現さないからである。しかも、せっかく採っても、まだ厳しい秋暑のなか、街まで帰り着くと、萎えた花穂から次々に花がこぼれ落ちていくのが残念だ。
 写真の花も持ち帰る途中に痛んでしまったが、街中に住むぼくには、これが精一杯なのである。そこに現れた悪友が、「この花、お前に向いているよ」。「なぜだ」と、ぼく。「人間のクズじゃないか。自覚しな」「畜生!」
 葛は奈良が本場だ。吉野のほとりに、国栖(くず)という地名がある。吉野葛は誉れ高い。
 室生、長谷は名刹だ。両寺の中間に大宇陀という街がある。古代阿騎野の地である。そこの森野旧薬園は、現在は吉野葛のメーカーだが、江戸期に栄えた薬草園があり、春にはカタクリの花も楽しめる。

tanaka04-08-2.jpg近くの東吉野村、川上村あたりに足をのばすと、吉野離宮跡や、丹生川上神社など、鄙には稀な社寺なども多い。奈良のお好きな方には、一度ぜひお訪ねいただきたい土地だ。
 器は山仕事の人が身につけて使う砥石入れである。大分県西部、日田地方の山人が使っていたのが、偶然2個手に入った。山野草向きで、愛用している。(福岡市在住)