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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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□u径17.8cm




(25)秋明菊(貴船菊)


 秋明菊といえば、誰しもすらりと直立した長い茎の上に、気品ある白い花をつけた秋草を思い浮かべるだろう。これは栽培用に改良された品種だときく。 今回は、その原種にあたる紫紅色の八重咲きを紹介したい。写真はいつもの里山で採った花だ。背丈は栽培種の半分ほど。花も小さい。貴船菊と呼ばれる種ではあるまいか。
 正直いって、ぼくは京都に暗い。奈良への通過地にすぎないのだ。従って、本物の貴船菊を見たことがないのである。
 貴船菊については、白洲正子さんの『花』(神無書房)から、一節を引用させていただこう。

「鞍馬の奥、貴船神社の境内は、うっそうとした樹林にかこまれており、高い崖によりそって、薄紫の貴船菊が、和泉式部の魂のような姿をして咲き乱れている。その風情が忘れられなくて、京都から持って来て植えてみたが、関東の土は肥えすぎているのか、頑丈な木のように育ってしまった。色も薄紫ではなく、白の八重で、関東では貴船菊のことを、秋明菊と呼んでいるわけがわかったような気がする。やはり植物も女性も、京都の土でなくては、あのように情趣にみちた姿に開花せぬのであろうか。」

 白洲さんは植物も女性も京の雅を愛しておられる。その女性だが、数え90歳のぼくだって、京都に女友達が居るんだぞ。
 どうだい、まんざら隅に置けないだろう。S・エリザベートさんというフランス人である。
 お願いすれば、彼女は貴船神社に案内してくれるだろう。だが、この女性、怖いのだ。滅多やたら佛教美術と古窯に詳しく、眼の確かさは日本人顔負けである。
ozaki044.jpg         秋明菊 貴船案内の帰りに骨董屋巡りになることは確実だ。年金暮らしのぼくは、指をくわえて彼女の買いっぷりに悔しがるしかない。そんな目に遭うなんて、真っ平御免だな。
 器は唐津の中里一族の中里隆さんの作品である。故あって、私の手元に来た。この経緯は別の折に……。(福岡市在住)