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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




tanaka2014-12-001.jpg器:能野焼 高:23.1cm












(26)見返り草


「見返り草が咲いた。お前さんにはもったいない名花だが、一本進呈する。男ならずとも、誰もが見返る素敵な女性に持たせるから、心して拝受しろ」悪友からのFAXだ。うかつにも、ぼくは見返り草という花を知らない。やがてピンポーン。ご到来だ。「○○さんからのお花でございます」。見返る暇も与えず、女性の車は走り去っていった。
 包みを開いて、びっくり。何だ、この花。まるで毛むくじゃらの棒じゃないか。しかも、葉は虫喰いで周囲は黄ばみ、まるで枯れかかりだ。野郎、一杯食わせおったな!

 花をじ~っと見つめるうちに、むらむらと反骨心が頭をもたげてきた。こういう癖の強い花は、器、そして据える環境、すなわち床と懸軸で勝負が決まる。俄然闘志が湧いてきた。何が数え90歳だ。心は19歳だぞ。
 さて、器。さまざまな手持ち古陶が眼をよぎる。中国戦国印文壺、縄文平鉢、瀬戸大破れ瓶子、結果は意外だった。江戸期の種子島、能野(よきの)の徳利を出してきたのである。
 能野は備前調の肌合いで知られている。一時は民藝仲間の羨望の的でさえあった。何せ、粗笨な窯だ。窯変の景色に降灰も参加する。土味も面白いらしい。小山冨士夫、中里隆など気鋭の陶芸家が作品を残している。
 今回の徳利、能野騒動が始まった頃、鹿児島で買った。ぼくは、古朝鮮直伝の形姿に惹かれた。一方、民芸店の評価は最低だった。千円札1枚で、なにがしかの釣銭さえもらえたのだ。


tanaka2014-12-002.jpgさて、活け上がった。
 敷板は奈良古寺廃材、軸は、天平の名経、薬師寺大般若(魚養経)。すべては渋味一色。
 すると、にわかに見返り草、紅花が活き上がる。野郎への見返しになった。銀座空也のもなかがあったなあ。一服、お抹茶をいただこう。(福岡市在住)