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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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(28)平江帯(ヒゴタイ)


 蛍の季節はもう終わったかな。ぼくが由布院で借りていた山荘の前はお池で、水源は清冽な湧水だ。ここが蛍の里である。庭の温泉に浸ると、恋しげに蛍が混浴しに飛んでくる。雌蛍だよ、きっと。
 混浴といえば、半世紀も前だが、愉快な経験がある。ぼくが勤めていた会社の保養所が別府にある。そこで同業他社と会議を催した。議事は快々に進捗し、皆で温泉に入った。
 ものの5分ほど後に異変が起こったのである。吾々が入った扉とは別の扉が突然開き、若鮎のようにピチピチした女性群が押し寄せたのだ。女性社員たちのツアーらしい。先頭群は吾々を見て「キャー!」と叫んだが、続行組が押しまくる。こうなると、女性の方が度胸がいい。「失礼しまーす」と言って、次々に浴槽に入り始めたのである。
 泡を食ったのは、中年男たちだ。腰にタオルを当てて、一目散に脱衣場に逃げ込み、一息ついたのである。
 その晩、一杯やりながら、「混浴の禁を犯したのは彼女たちだぜ」、「吾々に落度はない。ゆっくり眺めとけばよかった。残念!」
 実は女性浴場は、脱衣してすぐ左折すれば、ちゃんと立派なのがある。それを間違えて掃除用などに使う扉から入ったのである。あの左折表示は小さいから、見逃したのだ。
田中1506img003.jpgえーと、何の話だったっけ。そうだ由布院で蛍との混浴だ。いっそ由布岳に飛ぼう。
 写真の紫の葱坊主はヒゴタイの花である。由布登山口のバス停から少し上がった広い草原の一角に3群あるだけだ。九重や背振では、ぼくは見かけない。相当珍しい花だ。根締めには吾が庭のビオウヤナギを用いた。器は摺鉢。唐津と吹っかけられて求めた。(福岡市在住)

〈note〉ヒゴタイは西日本の山岳に自生する多年草。丈はほぼ1mぐらい。夏季に球状の花を付ける。葉はアザミに似て鋭いトゲがある。花も蕾のうちはトゲがあり、採取は難しい。西日本、九州、朝鮮半島南部に自生するが、年々減少している。ヨーロッパ、西アジア産の近親種、ルリタマアザミは園芸種として販売されている。
器の摺鉢は無釉で唐津と称され、いい値をつけられたが、どこの産かは不明。ただし、唐津の窯は広く散在するから、唐津系の脇窯の産かもしれない。ただ、摺り目は細かいので、古くても江戸のものと思われる。