onlineロゴ2.jpg

骨董・古美術・工芸のポータルサイトmenomeonline

よみものロゴ.jpg

皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)


tanaka14-04-1.jpg
器高9.2cm



tanaka14-04-03.jpg

tanaka14-04-4.jpg





(17)弥生だか土師だかの残欠


 骨董好きの中には、掘り出しに情熱を燃やす方も少なくないらしい。昔は面白いものが色々あった。当地でも、ちょっと欠けた絵唐津や平安の銅経筒が気軽に買えた。もちろん、盗掘品に決まっているが、何しろ当時の福岡・東京の時間距離は、今のニューヨークより遠かった時代だ。
 幸い、ぼくには掘り出しに興味はあまりない。でも、一応窯場や骨董屋の床下を探って見る覗き趣味はある。窯場の庭の片隅に、使い古された窯道具など見つけると嬉しくなる。もちろん失敗もある。
 佐賀に白石という軟陶の窯場がある。訪ねると、年老いた爺さまが独りでロクロを引いている。行平など求めたついでに床下を見ると、使い込まれて味がいい半球状の火貰いのような器がある。「おじさん、これ頒けてよ」。「あぁそれか、わしの溲瓶じゃよ」。用即美の世界とはこれか。民藝党よ、よく心しておくがいい。
 床下探索は成功例の方が多い。左中の小さい写真は、ぼくの寝室脇の唯一の和室に懸けた扁額である。寝室と、この畳部屋は境界に襖や障子はない。ベッドで頭を上げると、正面が床の間だ。床にはいつも古写経を懸け、花は須恵などに生けているから、「故に通ず」の扁額はまんざらでもない。これも由布院の骨董屋の床下から掘り出した時は、真っ黒けの板だった。
 今回使った花生は、奈良博の前の登大路の骨董屋の土間で見つけた。弥生だか、土師だかの壺の残欠器台である。茶碗でいえば、高台だけの破片にすぎない。左のモノクロ写真の器台と比べていただきたい。他人の空似だが、この器台だけ切り取って、逆立ちさせたわけだ。ぼくが掘り出したのは、底までちゃんとついている。この花生も扁額も、五千円札を出したら、千円札のオツリが何枚かきた。
tanaka14-04-02.jpg
 花は白山吹に紅紫色の木蓮を配した。この木蓮は、里山の雑木の中に生えていて、滅多に花をつけない。うまく一輪、恵まれた。(福岡市在住)