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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)







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(3)半掘出物


 以前、長崎湾に香焼島(こうやぎしま)という島があった。ぼくが長崎の支店に勤務していた半世紀ほど昔のことである。
 当時、三菱重工業長崎造船所は世界一の造船量を毎年更新し続けていた。工場を拡張したいが、現工場の周辺には余地がない。そこで香焼島と九州本土とのごく狭い水道(海峡)を埋め立てて陸続きにし、そこに巨大なドックを造るという。わが社にも工事は回ってくる。前もって関係者が香焼島を視察しておくことにした。
 船が着岸すると、えもいえぬ香りが漂ってくる。香を焼いて吾々を歓迎? まさか!? 上陸すると理由はすぐ分かった。見渡す限り水仙が自生し花をつけているのである。花好きのぼくは夢中で採った。ものの2〜3分で、百本は軽く採れたと思う。胸に抱くと、花の芳香にいささか酔った。
 そこへ島の餓鬼が現れ、吾々を見ると一列に並んで水仙に放尿する。いわく「おじさん、スイセントイレだよ。長崎は汲み取り式だろ。島の方が文化的なんだぞ」。半世紀前、長崎はたしかに汲み取り式だった。
 水仙を踏んずけながら歩くうちに、ぼくは捨ててある壺を見つけた。写真の壺が半分土に埋もれ、中には雨水が貯まっている。半分土中したのを掘り出すのだから、わけはない。
 持ち帰って洗ってみると、肩から上はしのぎ紋で、釉調も悪くない。早速吾が家で水仙百本を活けたら、家中に香焼の芳香がみちみちた。大満悦である。
 この壺、どこの産か、ぼくは知らない。長崎だけに多いようだ。薬草でも入れて、出島経由で輸入したのかしら。
 カミサンに、お茶の水指に見立てて使ったらというと、一笑に付された。眼が無いんだよね、きっと。(福岡市在住)

追記)右の写真は香りを楽しむために、たくさん活けたもの。水仙を花として活けるなら、下のように一輪咲いたのを活けると、この花の清楚さが出ると思う。

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