野辺の民藝
田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)
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この器と同じもので、黒い自然釉が全面にかかったものを
秦秀雄さんの花の写真集で見ました。あまり、数が
入っていないと思います。どこの島のどんな窯なのか、
一切不明です。読者の中で知った方がいらっしゃれば、
ぜひ教えていただきたいものです。
(5)南の島の壺
最近、尖閣諸島に始まり、南の島々が騒がしい。米国の大統領まで口をはさむ。一方、ぼくは南の島には半世紀前から注目していたのである。凄いだろう。その先見の明は。
といえば聞こえはいいが、国際間の勢力争いじゃない。南の島々に存在する民芸雑器が関心の的だったわけである。
その頃、鹿児島に進取の気性に富んだ民芸店主がいて、まず種子島の能野焼を持ち帰り世に問うた。これが、大当たりに当たったから、彼はさらに南下する。遂に国境を越えて東南アジアの島々に、次なるアイテムを求めたのである。
写真の器はその土産の一つなのだ。最初見たとき、自然釉が見事に流れたものもあった。が、求めるには、ぼくの懐中はいささか淋しかった。
一月後に訪鹿した折りには、いいものは片付いてしまっていて、無釉のが少々残るのみであった。でも、よく見てみると、ちゃーんと景色はある。
持ち帰って花を活けておくと、焼きが甘いから水が滲みて、胴にほんのり紅をさしてくる。「娘十六」じゃないが、色気が薫る器である。今の草食人種はどうだか知らないが、白髪の僕は喜んだのなんの! 残りものに福ありだった。
ところで、どこの産だ? 国名だけでも教えろ、と言われると、ぼくはハタと困る。東南アジアには島が多い。島名を説明された記憶もない。民芸だよ、勘弁して下さい。
花は藤。藤とはいっても、そこらで見かける藤棚の藤とは違う、花穂が短い山藤である。写真のような、いいのを採るのは大変困難だ。ぼくは山藤採りのさなかに転落し、大腿骨を折った。山の花採りは危険だよ。労災保険が欲しいなあ。
(福岡市在住)