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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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(7)瀬戸の徳利


 今月のテーマは徳利にしよう。というと、在福岡の人間が徳利を書くからには、きっと桃山期の絵唐津でも出てくるんじゃないか、と期待される方もあるだろう。残念! ぼくはそんな高級品を持ち合わせてないのである。
 失敗談をひとつ(幾つも持っているんだぞ、失敗談なら)。何となく古そうな唐津の徳利を見つけた。口辺が大きく欠け、胴下部がぽっかり破れている。が、丁寧に金で繕ってある、残念ものの絵唐津である。
 瑕があるから安いんだよ、初期の唐津が。骨董屋の主人は半年の分割払いで、何とかぼくに買えそうな値段を出してきた。よしっ、清水の舞台から飛び降りよう。
 支払いが終わる頃になると、どうも絵がいけない。初期の持つ、あの雄渾さがない。贋作だっ! 破れと金繕いは、騙しの手段だったのだ。
 写真の瀬戸の徳利は長年かけて大酒を呑んできた肌合いだ。昔、鹿児島の古民芸店で買った。主人の説明では、武家の家伝品だという。参勤交代の途中、愛用の酒徳利が破れたので、そこの宿場で求めた徳利が家伝して今に至ったそうだ。武家屋敷で入手したという。胴に三角形を組み合わせた紋様が釘彫りされているのは、所有者の識別マーカーである。

tanaka2016-07-03.jpg と、ここまで書いたとき悪友出現! 「お前、91歳だろう。徳利もいいが、壺を書け。骨壺も忘れずに、だぞ」。ぼくは教訓を垂れる。「骨董とはな、骨が草の下に重なると書く。覚えとけ。俺、野山に散骨してもらう。骨壺なんて用がないよ」。(福岡市在住)