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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)





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浄法寺盆に庭の山法師を生来不明な湯呑に活けてみた




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時の流れを印として刻みつけている

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比較として『唐物 輪花盆」を掲載。普通、中国の輪花盆というと、
角が鋭く立った木製の漆器ですが、これは獣皮を湿し柔らかくして
木型にはめて乾燥させ、それを漆で固めたものです。
ですから、感じが柔らかく、それが気に入って求めました。

(15)浄法寺の盆



 ぼくは東北が大好きだ。自然が美しいうえ、この上なく人情に厚い。特に岩手・山形両県が気に入っている。だから福岡ー花巻直行便の利用度数は、数え切れないほど多い。
 花巻から真西に奥羽山脈を分け入ると、沢内村がある。春の連休後に行ってご覧なさい。足の踏み場もないほど、かたくりの群生が花をつけている。

 ところで、東北は様々な伝統工芸が盛んだ。盛岡から北へ直線距離で60kmほどの山の中に、浄法寺町があって、日本一の漆の産地として知られている。当然漆工芸も盛んなのだ。ここの御山・天台寺の坊さんが、佛具や日用品を作ったのが起源というから、根来塗と同じ歴史を持つわけである。
 写真の盆は箱に「浄法寺 七寸盆」とある。よく使い込まれていて、黒い汚れはお湯で洗っても全く落ちない。渋味が利いているから、お茶人が菓子盆に使っていたらしい。
 花器はカミサンがどこか旅先の土産物店で自分用に買ってきた湯呑みである。それでも一応手描きの麦藁手で、呑口は皮鯨になっている。安物だから普段乱暴に使っていた。
 浄法寺盆は、ぼくが買ったときは、すでに骨董としての評価に変わっていたが、根は庶民の雑器である。こうしてみると、日本は美しい雑器を日常生活に無造作に使っていた、大変贅沢な民芸王国である。

 ついでの話だが、皆さんは浄法寺塗起源の天台寺当主をご存じかしら。住職は、なんと瀬戸内寂聴さんである。今年が晋山30周年とかで、5月5日に青空説法をされた。あの山中に5千人の聴衆が集まり、境内を埋めつくしたときく。凄いなあ。(福岡市在住)


※編集部注:現在沢内村は西和賀町、浄法寺(じょうぼうじ)町は二戸市になっている。○晋山 住職就任のことをいう。 ○天台寺 728年開山と伝え、本尊の聖観音菩薩は行基の作との伝承がある。第二次世界大戦後荒れ果てたが1987年に瀬戸内寂聴さんが住職に就任(現在は名誉住職)し、毎年青空法話を行うなど全国にその名が広まり、境内も整備された。 ○麦藁手 縦の線で彩色されたやきもの。瀬戸の特徴的な彩色。 ○皮鯨 口縁部に黒い縁取りをしたやきもの。古唐津のやきものが有名。


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天台寺(編集部撮影)