onlineロゴ2.jpg

骨董・古美術・工芸のポータルサイトmenomeonline

よみものロゴ.jpg

野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



scan088.jpg



scan087.jpg


写真上)飛鳥期の代表的な軒丸と軒平瓦
特に軒丸瓦は花生けに使われることも多い。

下)上の瓦を花生に使ってみた。
秋の花にはもってこいである。

右)東大寺大佛殿の巨大な軒丸瓦。
直径約27センチ強。
上の軒丸瓦も16センチと大きいが、
東大寺のものは二回り大きい。
焼いた窯はすごい。

□□□□□□□□□□□□□□□□


(25)瓦礫




 元気だった頃の父が吾が家を訪ねてくれた。ぼくの部屋に入るなり「何だ、この瓦礫の山は」。ちょうど奈良の寺々の古瓦を並べている最中だったのである。
 古瓦とて、時代がモノをいう。いい例が東大寺大佛殿の軒丸瓦だ。梵字を中心に、右左に「東大寺大佛殿」とあるから、奈良好きなら見逃せない。ぼくのは元禄再建の折の瓦だが、本筋は鎌倉再興時の分だ。だから、わけ知りは、「な~んだ、元禄か」と吐き捨てる。
 大佛殿の瓦は特例で、一般の軒丸瓦や軒平瓦では、数き者が手を出すのは、白鳳、奈良期までだ。しかも、供給・需要ともに多くはない。福岡のような地方都市では扱う店がないようである。
 東京でも、ショーウインドウに飾っている店とは出遭いにくい。好きな客が来たときに見せる、という扱いが多いようだ。
 値段の方も、ぼくのような貧乏人でも買えないということはないが、身の程を忘れて買うと、他のものには手が出せない。思案に暮れる厄介ものである。
 一方、首都圏には、よく勉強し、お小遣いも豊かな数き者も少なくない。だから、地方住まいが、帰って文献でも調べて、なんて悠長に構えていると、売れた後の祭りになる。

scan086.jpg



 写真上の大佛殿の瓦の脇の半欠け瓦は、前々回の花のおとし隠しに使った瓦だ。奈良で骨董屋から手渡された瞬間、白鳳と読んだ。小遣いでは足りず、借金が恒例の土産となった。

 実は、このコラムの原稿は、目の眼のAさんの担当だ。彼が前々回の私の原稿を開いたところを、同じ編集者のCさんがのぞき込み、「ああ、この瓦はいいなぁ」と、瓦だけがお褒めにあずかったそうだ。
 花の活け方も文章もなってないのに、と心中を吐露しなかったところは、Cさんの武士の情けか。Cさん、ありがとう。(福岡市在住)