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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)

たなか02.jpg花:郁子(ムベ) 器:奈良古材(高19・4cm)

(1)郁子(ムベ)

 背振山(せふりさん)は福岡・佐賀の県境の山だ。山野草のメッカだから、ぼく定番のコースである。少し山に分け入ると廃園にでくわすことも稀ではない。仙人(そまびと)の住居跡らしいのだ。昔、住人が植えた木は、すっかり野生化してしまっている。こんな木の花はすばらしい。

 花も人の手で養われると、肥満児になりがちである。一方、自然の厳しさに耐え抜いた花は、根性が据わっていて個性が強い。これでないと、古器には活けられないのである。
 先頃、そんな廃園の一つに入ってみた。あいにく花がない。立ち去ろうとして、傍らの梢を仰ぐと、絡み登った蔓の先に白い花が輝いているではないか。あっ、ムベだ。採ろうにも、高くて手が出ない。あたりを探すと、ありがたや、分枝が腰の高さで花をつけている。さっそく頂戴した。

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 ムベ(郁子)はアケビの仲間である。葉はアケビより大きいが、同じく5枚の複葉、果実もアケビとよく似ている。アケビなら、どこにでも幾らもあるが、自生のムベの花に出遭ったのは、長い花採り生活で初めてである。そんな次第で、皆さまにご紹介することにした。花器は奈良古材、法隆寺の焼印が押してある。(福岡市在住)