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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)

konohana06-03.jpg花:吊舟草 器:琉球グラス(高さ約10.0cm)

(6)吊舟草(つりふねそう


 天災は忘れぬうちにやって来る。西日本は風水害の多発地帯だ。福岡県央を流れる九州一の大河、筑後川の近傍では、いざという時に備えて、以前は民家の軒先に避難用の舟を吊している姿を目にしたものだった。
黒川水源.jpg  黒岳の男池水源 そんな土地柄か、行く先々の山の渓流や湧水地には吊舟草が多い。右下の写真を御覧ください。注意して眺めていただくと、円弧を描く一本の細い茎が舟形の花の首部を吊っているのが見つかるだろう。命名の由来である。なお、釣船草と書く例も見るが、当て字だとぼくは思っている。

 実はこの花、早ければ8月中旬、遅くても9月上旬には開き始める。花は初咲きを紹介するのが常識だが、この時節はまだ暑い。湿らして持ち帰っても、花が活き返ってくれないのだ。花期が長いのを幸いに、10月に掲載させていただく次第である。

konohana06-02.jpg  黄吊舟 里山近傍の花は赤紫が多いが、高地に分け入ると黄色い仲間に出遭う。黄吊舟という。大分県の九重山系には湖や湧水が多い。何度も行った黒岳の男池湧水に近い湿地には、狐の剃刀、禊萩などの群落に混って、しばしば黄吊舟を見かけたものである。
 器は米軍占領下の琉球グラス。彼らが捨てた瓶が原材料ときく。戦争の落し子が、ここにも居る。
(福岡市在住)