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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)





tanaka0202.jpg高5.2cm 口径8.4cm








(4)豆子(ずつ)

 豆子を「ずつ」と読める方は決して多くはあるまい。白状する。ぼくも知らなかった。大豆は「だいず」。ところが小豆は「あずき」という。その伝で、小豆島を「あずきじま」と言おうものなら、散々嘲笑される。「あいつ、『二十四の瞳』も知らない文盲だな。野蛮人だ」。むつかしいんだな、豆は。
 豆とは、小さいという意味だろう。そう信じて、ぼくは疑わなかった。豆ランプっていうじゃないか。ところで、まもなく87歳のぼくの体格は大正規格である。背の低い小男だ。それなのに、まめまめしい働き者である。だから、「豆男」と自賛していた。
 あるとき「お前さん、豆男を一度調べとくといいよ」と注意された。字引をみると幾つかある豆男の中で、小男は一番最後にごく小さく出ているだけだ。なーるほど、自賛の豆男は御返上申し上げた方がよさそうである。
 豆男君の懺悔はこのくらいにして、豆子さんの身の上話をしよう。おっと、豆子は女性じゃない。木の器である。猪口より大きく碗より小さな根来なのだ。寺で使うらしい。ぼくはその実体を知らない。が、坊様たちが般若湯を飲むのに頃合だと思う。豆子酒の方が茶碗酒より艶がいい。花の器としても、灯明器を吊花にした時など便利である。
tanaka03.jpg花:蕗の薹 今回は、春を待ちきれず厳寒中に芽吹いた蕗の薹を活けてみた。蕗は、福岡市中央区の吾が家の近所の庭でも健在なのだ。丈夫な草である。街なかだと里山より一歩早く春の到来を前触れしてくれるのが嬉しい。
 そんなお庭から10芽ほど頒けて戴くと、花に回る分より天ぷらに消える方が多くなる。山菜仲間の楤(タラ)の芽が待ち遠しいと、舌がささやく旬の味。
 花も食卓も爽やかな気分にみちてくる。
           (福岡市在住)