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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)





tanaka01.jpg漆桶:高17.8cm






tanaka03.jpg生漆採りの漆桶 左からランチ、ディナー、豪華ディナーの漆桶

(5)漆桶(うるしおけ)


 京都の道具屋さんに立ち寄ると、妙な桶に出遭った。漆桶だそうだ。えっ、と思った。普通、漆桶といえば漆の木から樹液を採取する職人が使う桶である。都度、自分用を手作りするから手粗い細工だ。どれも寸法や作りは似ているが、同じものは二つとない。
 ところが、京都で見つけた桶はちがう。曲物細工のちゃんとした作りなのだ。こんなの生漆採りに持ち歩くわけがない。よく見ると、墨書がある。正面に「風袋 九拾貮匁」、裏に「正味壱貫目」と認めてある。きっと漆を売るときの計量器にちがいない。色々と調べるうち、益田鈍翁がこの手の桶を花生けに使っていたことがわかった。もちろん、鈍翁旧蔵は数等気品が高い。だが、ぼくの眼だって、まんざら節穴じゃないんだぞ。因みに、ぼくのは飛騨地方の産、鈍翁のは黒塗りで、北陸の産だそうだ。
 ぼくと生漆採りの漆桶のつきあいは長い。半世紀近く昔ならちょっとしたランチの値段で買えたから、花に愛用した。その数年後、出遭うとディナー価格に出世しているではないか。あとは鰻登り、三つ星レストランの豪華ディナーまで昇格した。漆桶ブームに火がついたのだ。ぼく、類焼被災者である。骨董には火災保険がないから、漆桶はここで打留だ。
tanaka02.jpg        花:桜花は桜を活けた。日本の国花だもの。しかし、戦中育ちのぼくには、いささかいやな思いがつきまとう花である。「君たちは桜のように美しく花咲いて、潔よく散っていけ」
「日本男児の本懐は、死所を得るところにある」と、散々そそのかされて、同窓は幾人も散ったのだ。無垢の少年が「桜花」の名のもとに・・・
 散る桜 散らぬ桜も 散る桜  良寛
           (福岡市在住)