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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)





000023b.jpg               高31.0cm






(6)薩摩の通い筒


 最初、通い筒について簡単に説明する。通い筒とは花を贈る運搬用器のことである。運ぶ途中に萎れないよう水を張る竹筒に、逆U字形の持ち手をつけて、提げやすくした筒なのだ。
 花を贈るのは雅びた風習だから、通い筒は一般に優美な造りである。そのまま床の間に置いて、花を活けても納まる作行きだ。ところが、薩摩のそれは違っている。武骨いのである。土地柄がにじみ出ているというべきか。
 ぼくの社会人振り出しの地は鹿児島であった。60余年前、赴任して閉口したのは、会話が通じないことだ。薩摩語と呼ぶに足る難解さである。次に驚いたのは、一度女性が入浴した風呂には、決して薩摩男児は入らないという頑固さだ。女物を洗濯する盥や物干し竿は、男物用とは厳格に区分されているのである。当時の鹿児島は、女性にブルカ着用を強要するタリバーン顔負けの男社会であった。
 とにかく男は威張っていた。そして、「義をいうな」(理屈をこねるな)と、実践を尊重するのだ。尚武の気風が濃厚である。それだけに、通い筒まで武骨いのだろう。
000024b.jpg        花:二人静写真の筒を見てください。簡素で合理的、そして丈夫に作られている。普通の通い筒なら、持ち手をまろやかに仕上げる関係から、本体とは別の竹を籐で筒に縛っている。丁寧に扱わないと持ち手が外れるが、薩摩のはその心配がない。さすが尚武の地である。
 花は二人靜に縞葦を添えた。この花、白い花穂が一本の一人靜という仲間もある。70代の半ば頃、大分県由布山系の雨乞岳で急坂の藪をかき分け頂上目指して30分、やっと林に踏み込むと一面二人静だ。カミさん共々へたり込んで、二人は静かに憩うたのである。(福岡市在住)