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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



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高20.4cm









(9)南蛮



「愛国無罪」という四字熟語が今年も夏から秋にかけてはやった。剣呑である。ぼくが少年のころだから、80年ほど昔のことだ。大臣などがテロで殺される事件が連発したものである。裁判では、被告の愛国至情の発露だとか何とか言って、刑は大甘の判決が多かった。愛国軽罪なのだ。結果、国破れて一億総飢餓、ひどい目に遭った。愛国軽罪を許したツケは、必ず国民に回る。愛国軽罪のツケが回るのは他国民の身の上ながら、ちと気の毒だ。が、この言葉、そもそもが毒だよ、毒。
 ことの発端は、琉球列島最南端の岩礁らしい。実は、このあたりからフィリピンにかけての南海の島々は、さまざまな陶器が寄せ集められて伝来しているようだ。どこの産だか分らないが、素朴で味のいいものもある。そこで、民芸店主は、一括して「南蛮」と呼ぶ妙法を思いついた。
 写真の壺は、器肌に結構景色があるし、わずかだが肩に灰を被っている。「これ、どこの産?」と尋くと、店主は「南蛮です」。「やっぱり南蛮か」と、ぼくは納得する。実際は、なに一つ分かりはしないくせに。
 時に応じて、お客を見て「古備前ですよ」と吹っかける悪徳商人も居るらしい。皆さんにその心配はないが、初心の方はご用心あれ。古備前と南蛮とでは、価格差10倍ではきかない。
 古備前に紛れるほどの味があるから、ぼくのような貧乏の花好きには、南蛮はありがたい。よく焼締められているので、長時間水を張っておいても、滲む心配もない。
tanaka2012-1202.jpg 花は冬苺に虎杖(いたどり)の黄葉を添えた。虎杖は春の紅い芽生えから、初夏の白い花、初冬の黄葉まで、季節が移り変わるごとに、ぼくを色々と愉しませてくれる。写真の黄葉は、いつもの里山で山苺と一緒に採ったものである。(福岡市在住)