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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



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高12.2cm









(10)桐のウエストポーチ

 九州は四面海である。北と西の海岸は大陸の寒風が吹きすさぶので、裏日本の気象だが、東南側は太平洋だから東海道的、冬も好天で暖かい。ただ、山が海に迫り平野に乏しく、産業が発達せず人口も多くない。
 それだけに、古き善き日本が残っているのだ。善男善女ばかり、のんびり暮らしている。そこで、時折、思いもかけぬ体験をする。
 以前、宮崎から鹿児島へ、各駅停車ローカル線の旅を楽しんだ。夕刻6時すぎ、中間点の都城に到着すると、30分余り停車するという。えっ、いったい何で……。驚くぼくを尻目に、乗客は先を争い降りていく。みな仕事を終えて帰る人たちらしい。発車時刻の間際に、誰も頬を赤くしてどやどや乗り込んできた。中には紙コップとつまみを抱えたご機嫌者もいるのだ。
 仕事帰りに一杯どうぞ、なんて列車ダイヤは心憎い。ローカル線活用グランプリ一位確実である。きっと、車からJRに乗り換えた人も少なくあるまい。おっと、話が脱線した。
 九州山脈東部は山仕事に恵まれているから、いわゆる山窩のような人もいたときく。そういう人々の山仕事道具を掘り出してくる民芸店主が、由布院で店を開いていた。お蔭で、ぼくはちょいちょい面白いものを手に入れることができた。写真の花器もその一つである。
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 これは山仕事のウエストポーチらしい。桐の一木造りだ。軽くて丈夫。写真では見えないが、裏に腰に結わえる紐を通す仕組みもある。蓋はぴちりと閉まり、出来はいい。
 お正月だから、花は梅にした。普通、梅は正月には咲かない。そこで、山でつぼみがついている小枝を採ってきて、暖かいところで養生してみるのだ。運がいいと巧く咲く。これでお正月がめでたく迎えられるわけである。(福岡市在住)