目の眼オンライン美術展レポート
世田谷美術館「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展
2011年3月18日 取材
手を合わせるというのは、古今東西を通じて、神に祈る時のかたちである。
心は心が思っているほどじっとしているものではない。始終安念を生じたり、右往左往する厄介な代物だ。そういう時私は手を合わせる。手を合わせていると、右の指先から左の指先へ血が通い、その逆にも行くようになって、次第にバランスがとれて落ち着いてくる。
白洲正子「手を合せる」より。
用賀駅やきぬた公園には案内の看板が立っています。
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サクラやレンギョウが春を告げるきぬた公園。
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テーマに合わせゆったりと配置された展示。
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重要文化財 《女神坐像》平安時代 京都府松尾大社□
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重要文化財 《菩薩半跏像》奈良時代 奈良県岡寺□
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重要文化財《女神坐像》平安時代 滋賀県建部大社□
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古面 《翁》室町時代 観世九皐会□
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重要文化財《役行者倚像・前後鬼坐像》鎌倉時代 滋賀県石馬寺□
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白洲正子「手を合せる」原稿
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昨年10月から滋賀県立美術館、愛媛県立美術館で催されている「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展が最終巡回展として世田谷美術館で開かれています。
会場となる世田谷美術館は広大な、きぬた公園の中にあり、園内は紅白の梅や黄色いレンギョウ、サクラが咲きそろって桃源郷を思わせていました。
白洲正子生誕100年特別展、世田谷美術館開館25周年記念として行われる今回の展示は、白洲正子が愛し、たびたび訪れた寺社に安置されていた仏像や神像、宝物など約120点を展示するもの。国宝や重要文化財のほか、秘仏や個人蔵のコレクションもあり、紀行文や評伝に残した言葉とともに展示されています。
展示は白洲正子の美意識や世界観を形成する10のキーワードによって分けられています。最初のコーナーは「自然信仰」で、那智滝の音がBGMで流れる中、那智や富士参詣の様子を描いた絵図、熊野速玉大社の国宝「家津美御子大神坐像」などがスライドの映像とともに信仰の世界を表現しています。
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自然信仰のコーナー
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ほの暗い展示スペースの中でスポットライトを浴びて浮かび上がる神仏のお姿は、昔から人々の心の拠り所であったことを、あらためて教えてくれます。白洲正子は22歳の時に奈良の聖林寺で初めて十一面観音と出会い、以降は近江や西国の深山に祀られた寺社を幾度も訪れては神仏と対面してきました。今回の展示では、特にゆかりの深い仏像が多く展示されています。「十一面観音巡礼」のコーナーで目につくのが、三重県観菩提寺の十一面観音立像。力強いお顔立ちで、正子も「暗い本堂の中で拝んだ時には、何ともいえず神秘的な印象を受けた。仏像というより、神像に近い感じがした。」と著しています。また、奈良県松尾寺の焼け焦げた仏像の残像(トルソー)は、すらりとした姿で美しく、「朽ち木と化したその姿は身をもって仏の慈悲を示している」、と書き残しています。長く人々に崇拝されてきた神仏像や宝物は、持って生まれた神々しさがあり、それが正子の美意識を呼び覚ましたのかもしれません。
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重要文化財《十一面観音立像》平安時代 三重県観菩提寺
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この展覧会は、正子と同じ視線で神仏と向き合い、残した文章を通して共感を得ることができる希少な機会です。未曾有の災害に見舞われ、あらためて心と心の繋がりが求められている現代社会。神と仏、自然への祈りという昔から日本人が持つ心の拠りどころが現代にも必要なことを再認識しました。(編集部安藤博祥)
2月27日発行の目の眼4月号にも特集として紹介記事を載せています。
世田谷美術館□□□ホームページ
「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展
2011年3月19日(土)- 5月8日(日)