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目の眼オンライン美術展レポート

香りを目で楽しむ東京藝術大学大学美術館
「香り かぐわしき名宝」展
2011年4月6日取材

 春爛漫。平年よりも僅かに遅れて満開になった上野の山の桜に包まれて、「香り かぐわしき名宝」展が開幕しました。香りという目には見えない感覚を視覚で表現した芸術を観賞するという珍しい企画展です。

建物.jpg春の香りに包まれた東京藝術大学大学美術館
館内01.jpg地下2階と地上3階が展示スペース
展示02.jpg牡丹唐草蒔絵伏籠 木瓜三引両紋散花蒔絵阿古陀香炉 江戸時代 京都国立博物館蔵
展示01.jpg(手前)銅三具足 江戸時代 個人蔵 (奥)阿弥陀来迎図 江戸時代 京都雲龍院蔵
展示06.jpg三頭藤巴紋宝相華十種香箱 江戸時代 京都・香文化資料室 松栄堂 松寿文庫
展示03.jpg十一面観音立像 唐時代 東京国立博物館

展示05.jpg美人聞香図 伝菱川師宣 三頭藤巴紋宝相華十種香箱 江戸時代 京都・香文化資料室 松栄堂 松寿文庫
 展示は「香りの日本文化」「香道と香りの道具」「絵画の香り」という3つの柱で構成されています。地下2階は「香りの日本文化」「香道と香りの道具」の展示で、「香りの日本文化」には法隆寺の「聖徳太子像」、「銅獅子鎮柄香炉」、徳川美術館の香炉をはじめ、全国の美術館や寺院所蔵の仏像仏具などが展示され、仏教伝来とともに広まった香りの文化を紹介しています。
 続く「香道と香りの道具」のコーナーでは、室町時代以降に茶道、華道と並ぶ発展をとげた香道(こうどう)の世界を紹介。仏具として用いられてきた香木を芸道にまで高めた香道は、香りを用いて感受性を高め、精神世界を創造するもの。すでに室町時代には体系化され、香木のかおりを聞いて(かいで)観賞する「聞香(もんこう)」が大成されたといいます。茶道が発展するのに付随して茶道具が洗練されていったのと同様に、香道の道具も芸術性が高くなり、蒔絵の手法を用いた沈箱や必要な道具をひとつに納めた香箱など、秀逸な作品が今に残されています。また香炉などもすぐれた品が多く、引き込まれます。
 地下2階から地上3階の展示スペースに移ると、香りを絵画で描いた作品が並んでいます。江戸時代の風俗を描いた浮世絵には、香炉が置かれていて、遊興の世界では香りが重要な要素だったことがうかがえます。

香室.jpg志野流の香席が再現されている
館内02.jpg

 香りを目で楽しむという今回の展示ですが、香りの体験ボックスが数ヶ所設置され、平安の香りをイメージした香り(薫物や伽羅)など、平安貴族や武家が楽しんだであろう香りが漂ってくる仕掛けもあって、実際の香りを聞くことができます。また、3階には実際に香道を行うための志野流の香席が再現されています。志野流の流祖、志野宗信は足利八代将軍義政を取り巻く文化人の一人で、香木の種類や焚香の作法など、香道の基礎を作った人物として知られています。
 香りという目には見えないものだけれど、芸術家はその香りを五感を研ぎ澄ませて表現し、また日本人ならではの繊細な心で楽しんだ事がよくわかる展示でした。(編集部安藤博祥)

東京藝術大学大学美術館「香り かぐわしき名宝」展
2011年4月7日(木)〜5月29日(日)