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目の眼オンラインレポート 

開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」II
「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」展
2011年6月16日

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symbol_img04.jpg桐鳳凰図屏風 狩野探幽筆六曲一双 江戸時代 17世紀 サントリー美術館蔵 展示期間:6月27日まで

symbol_img01.jpg重要文化財 桐竹鳳凰蒔絵文台・硯箱 桃山時代 16世紀末〜17世紀初 サントリー美術館蔵 展示期間:7月11日まで


symbol_img02.jpg色絵獅子鈕鞠形香炉 野々村仁清作 江戸時代 17世紀後半 サントリー美術館蔵 展示期間:全期間



symbol_img05.jpg獅子図 小田野直武筆 江戸時代 個人蔵 展示期間:6月29日〜7月24日



symbol_img06.jpg重要文化財 青磁鳳凰耳花生 中国 南宋時代 五島美術館蔵 展示期間:全期間


開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」II
「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」展
 会  期/開催中〜7月24日(日)
 会  場/サントリー美術館
      東京都港区赤坂9-7-4
      六本木・ミッドタウン ガレリア3階
 開館時間/10時〜18時
     (ただし金・土曜は20時まで開館)
      ※7月17日(日)は20時まで
      ※いずれも入館は閉館30分前まで
 休  館/火曜日
 入館料/一般1,300円、大学・高校生1,000円、
     中学生以下無料
 問い合せ/03-3479-8600
 ホームページ/http://suntory.jp/SMA/
※開館情報は変更になる場合があります。詳しくはサントリー美術館ホームページをご覧下さい。
※会期中、展示替えがあります。

 『目の眼』7月号でも第2特集として詳しくご紹介したサントリー美術館の「鳳凰と獅子」展が6月8日より開催されています。

 六本木の東京ミッドタウン3階、サントリー美術館の入口から、さらに専用エレベーターであがった第一展示室の入口では、狛犬が入場者を出迎えてくれます。この木彫の一対の狛犬は鎌倉時代のもので、彩色はとれて、なめらかそうな木の地肌が見えています。ふんばった前脚と背に浮き出たあばら骨の表現が写実的で、力強さを感じますが、顔や眼は丸みがあって愛嬌があります。そして、不思議なことに尾が二又にわかれ、先がわらびのように巻いています。図録の解説によると、あまり例のない珍しいものだそうです。
 狛犬の間からは、大きな金色に輝く屏風がみえます。近づいて、屏風に描かれた金雲の間からみえる広々とした鳥瞰の風景をのぞき込むと、頂きに金の鳳凰を掲げた神輿が七基、湖を舟に乗って渡っていきます。これからはじまる鳳凰と獅子の世界にひきこまれるような導入部で、心憎い展示です。

 鳳凰は、優れた天子が世に現れる兆しとされた瑞鳥、獅子はライオンを原型とした邪気を祓う霊獣です。両者ともに、おめでたい瑞祥をまねく動物として古代中国から日本に伝わりました。

 展示は、中国から鳳凰と獅子が伝えられた古代日本からはじまります。唐から日本に渡ってきた銅鏡には躍動的な鳳凰と獅子が踊り、飛鳥時代の寺院を飾った磚(せん)では鳳凰が翼を大きく振り上げています。
 お正月やお祭りでおなじみの獅子舞も、起源は飛鳥・奈良時代に伝わった伎楽・舞楽です。平安時代の獅子頭や獅子舞の様子が描かれている古楽図からは、現在の獅子舞とはまた違った様子が分ります。

 仏教では、獅子を台座にした文殊菩薩がよく知られています。本展のポスターにもなっている「文殊渡海図」は、一際大きく感じられ、実際に近くでみるととても迫力があります。文殊菩薩を背にして振り向く獅子の姿は、その後の獅子図にも大きな影響を与えているそうです。その他にも、鎌倉時代、室町時代を中心に、国宝を含む文殊菩薩像や舎利容器などが出品されています。
 鳳凰もまた高貴なシンボルとして、神社仏閣の装飾によく使われます。寺院では、京都宇治の平等院鳳凰堂が有名です。今回は平等院の屋根を飾っていた鳳凰の模造一躯と、焼失の際にたまたま修復のために降ろされていて難を逃れた鹿苑寺の金閣の鳳凰が出品されています。両者それぞれの造形を間近で見比べることができるめったにない機会です。また、平等院の本尊阿弥陀如来像の胎内に納められていた鳳凰の断片も公開されています。

 鳳凰は、中国・明時代に入ると、絵画の主題として愛好されました。宮廷画家の林良(りんりょう)による「鳳凰石竹図」は、水墨にもかかわらず、雅やかな羽をとじて巨木にとまり、旭日をにらむ高貴な鳳凰の様子がみごとに描かれています。

 こうした明代の鳳凰図が、再び日本に伝わって展開していきます。特に目を引いたのは、狩野探幽と伊藤若冲の掛軸や屏風です。約100年の時を経て描かれた鳳凰は、様式は継承されていますが、その時代それぞれの画風と絵師の鮮やかな画力が際立っています。

 獅子が牡丹の花に舞い戯れる能の演目「石橋(しゃっきょう)」や歌舞伎の「鏡獅子」は、獅子のイメージを一層華やかな祝儀にふさわしいものにしました。紅白の牡丹の花のもとで、獅子が舞う華麗なイメージは、絵画はもちろん、着物、工芸品にも好んで使われています。獅子のたてがみと二面を合わせた扇を獅子に見立て、牡丹の花をちらした振り袖の意匠は、女性の振り袖には獅子は強すぎるためでしょうか、面白く感じられました。

 江戸時代半ば、18世紀には蘭学が盛んになり、海外から実在のライオンを描いた書物がもたらされました。その後、伝統的な獅子と共にライオンの図も描かれるようになっていきます。
 その後も、獅子、鳳凰の意匠は、祝儀のシンボルとして好まれ続けたことは、会場の最後に展示されている20世紀初めに作られた華やかな鳳凰と獅子の筒描布団地からもうかがえます。婚礼用に誂えられた布団地からは、一般庶民にも、鳳凰と獅子が祝儀と厄除けのシンボルとして深く浸透していたことがわかります。

 本展では、この他にも絵画、工芸品、陶磁器、仏教美術、彫刻など、様々な作品が展示され、鳳凰と獅子がまさに不滅のシンボルとして日本文化にかかせない意匠であることを知ることができます。

 さらに展示会期間の後半では、有名な「唐獅子図屏風(からじしずびょうぶ)」(右隻:狩野永徳 桃山時代 左隻:狩野常信 江戸時代 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 展示期間:7月6日〜24日)や、小野田直武の「獅子図」(一幅 江戸時代 個人蔵 展示期間:6月29日〜7月24日)が展示されるとのことで、見逃せない名品が揃うお勧めの展覧会です。(編集部 小林)