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「室礼三千」室礼教室だより その5「嘉祥菓子」


 震災が起こった3月は、東北は雪がまだ降ったりする季節でした。被災された皆さんは寒さでよけいつらい思いをされたと思います。あれから3ヵ月、もうすぐ梅雨の季節です。暑さと湿気で物が腐りやすくなり、食中毒や感染症に気を付けなければなりません。

 6月の教室は、そんな季節に病気になりませんように、という厄除け、お供えをする嘉祥菓子という室礼でした。これまで室礼してきたなじみ深いものとは違って、ご存知ない方も多いと思います。私も聞いたことがありませんでした。
 「嘉祥」はおめでたいという意味です。平安時代、旧暦6月16日に16個の菓子を神に供える行事が嘉祥菓子のはじまりといわれていますが、諸説あって実はよくわからないのだそうです。それでも、この6月16日に菓子を供える行事は、その後明治のはじめまで盛んに行われていたようです。
「昔、砂糖はなかなか手に入らない貴重品でしたから、最高の贅沢品を神様にお供えして、厄を祓っていただこうという気持ちがこめられていたのでしょうね」と山本先生。昔は、おめでたい時に盛る「祝い七つ菓子」と呼ばれる7種類の菓子があり、東西南北天地の6つに盛る人のこころを加えて7種類とされていたそうです。今でも老舗の虎屋さんでは注文を受けると昔の嘉祥菓子を作ってもらえるとか。この嘉祥菓子の行事にちなみ、現在6月16日は和菓子の日となっています。

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 教室では、嘉祥菓子として五色万頭(ごしきまんじゅう)を盛りました。青(緑)赤黄白玄(紫)の五色は、前回端午の節句にも出てきた陰陽五行からきています。「万頭は最高位の格式の高いお菓子ですから、お供えはもちろん、お祝いに差し上げるのにもふさわしいお菓子です。本当は、ケーキは『ケーキを切る』が『縁を切る』に通じて、縁起がわるいかも(笑)」と山本先生。ふっくらした五色の万頭は華やかで可愛らしく、そして力強さもあり、神様にも喜ばれそうです。
 教室では、この嘉祥菓子と一緒に、茄子と白瓜を盛りました。青紫連芳(せいしれんぼう)といって、旬の美しい青と緑を盛って、お互いが相手によってひきたつという意味を表わします。瓜の「つる」が、「連なる」に通じて、芳しさがずっと続くという意味になります。昔の人たちは、色々な事、物、色、ことばについて考えて、こころや祈りを表現しようとしたんですね。

 さて、いよいよ盛り物ですが、万頭の下には深山シダを坐として敷きました。「私がお手本を先にすると、みんなそっくりになるので(笑)、まずはそれぞれ盛ってみてください」と言われ、生徒さんめいめい、一生懸命盛りました。私は「五行の五色万頭なので、シダの葉を五芒星のようにしてみようっ」と思いつきでしてみましたが、先生から「ここはシダを一枝敷いたうえにお万頭を置いた方がいいですね」と言われ、あまり作為的なことをしてはいけないな、と少し反省しました。写真は先生に直して頂いたあとのものです。すっきりして良い感じになりました。

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 自宅に帰ったあと、早速教室で頂いた五色万頭と茄子・白瓜を盛りましたが、万頭はすぐに頂いてしまいました。お供えしたものを頂くことを直会(なおらい)と言うそうです。仮にもお供えした万頭を頂くので、少し改まった気持ちになりました。そういえば、祖母の家におみやげを持っていくと、まずは仏壇に供えられ、そのあと孫たちに配られていたことを思い出しました。

 6月は嘉祥菓子以外にも、田植えの季節に早苗を盛って、豊作を祈る「水口まつり」(みなくちまつり)、6月30日に行う「夏越しの祓い」(なごしのはらい)があります。6月30日は、今年後半の息災を祈る行事、神社で茅(ち)の輪くぐりが行われます。そこで、茅(かや)を盛るのだそうです。茅は色々な種類があり、道ばたなどに生える身近な雑草だったとか。そういえば、毎朝通っている近所の坂の両脇に、この時期、しっぽのようにゆらゆらする銀色の植物があるのを思い出しました。毎年、きれいだなと思って見てはいたのです。これが床の間に盛られ、神に供えられる茅だったとは!来年は「夏越しの祓い」も室礼してみたいなと思います。まず今年は6月30日に近所の神社に出かけて、「夏越しの祓い」の行事に参加してみようと思います。皆さんもお出かけになってみてはいかがでしょうか。

R0010611.jpg 四季は今も昔も変わらずめぐっているし、植物たちも毎年同じ芽を出しています。人の見方や感じ方だけが変わっているんじゃないかな、と室礼をしてみると、そんな気持ちになりました。
 今年も梅雨がきて、暑い夏がやってきます。毎年それは変わらないことですが、震災後の疲れがたまっている体には、とりわけこたえるかもしれません。被災地の皆さんはもちろんのこと、そうでない方も、これからの季節、お体には十分お気を付けてお過ごし下さい。(編集部 小林)

山本三千子先生主宰
menusub_r1_c1.gif室礼三千のホームページ

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