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「室礼三千」室礼教室だより その7「お盆」


 梅雨が明けたかどうかという内に、猛暑がやってきました。
 私は田舎が東北なので、こんな暑さは8月のお盆の頃だけでした。暑い中の墓参りや法事を思い出します。
 室礼教室も今月はお盆の室礼です。東京は7月がお盆、教室にうかがった日はちょうど送りの16日でした。先生のご自宅でも、仏壇にご先祖へのお食事がお膳で供えられていました。

 山本先生のお話は、改めて「室礼とは何か」ということから始りました。室礼の歴史的な変遷はここでは書きませんが、室礼教室でいう「室礼」は、先祖、故人へのもてなしが主であることがよくわかりました。
 今回のお盆の室礼は、そのことが誰にもはっきりと感じられる室礼です。先祖が帰ってきて、それをお迎えしてもてなし、そしてまたお帰り頂く。各地方でそのための迎え方、送り方がしきたりとして、昔から伝えられてきました。今もきちんとお盆のしきたりを守られている方も多いでしょう。私自身は幼い頃、お盆にお墓参りには行きましたが、成人してからは全くしていませんし、細かい意味ややり方もわかりません。お盆の行事も次第に簡単にすまされつつあるという気はします。

 室礼でもお盆の先祖をまつる心を盛り物にしますが、今の家の形に合わせて、見立てて表現するところがあります。「各家のしきたりがあればそちらでして下さい」と、山本先生はいつものようにおっしゃられました。
 まず、故人(先祖)が帰ってくる日に焚く迎え火は、麻がらという麻のくきを乾燥させたものを折って、焙烙(ほうろく)という器に入れ火を焚きます。煙にのって家にお入り頂くという意味があるそうですが、室礼では火は焚けないことが多いので、麻がらの上にほおずきをのせ、火の代りとして見立てます。ほおずきの別名は灯籠草というのだそうです。
 お供えは、真菰(まこも)というゴザのようなものの上にのせます。これには聞くとびっくりするような深い意味がありました。
 家に入った故人(先祖)は天から降りてきたものの地に足がつけないので(足がない!?)、天と地の間、中空(なかぞら)にいらっしゃると考えられてきました。昔の人は水の表面を中空と考え、水草である真菰を刈って乾燥させてゴザに編み、それを中空に見立てて、その位置をご先祖様がお帰りなられるところと考えたようです。

 教室では、西瓜(すいか)、柑橘(グレープフルーツ)、ぶどう、もも、きゅうり、ナスを盛りました。スイカは水瓜なので水を供える意となります。「これが決まりという訳ではなくて、故人の好きなものを供えるようにして下さいね」と山本先生。
 そして、キュウリとナスで馬と牛を作りました。これはご存知の方が多いと思いますが、先祖がキュウリの馬にのって帰ってくるためです。ナスの牛は荷物をのせるためとか。箸の足の長さを変えて、馬と牛の違いがわかるように作ると、かわいい二頭ができあがりました。迎えの日には頭を家の内に向けて、送りの日には外に向けて置きます。外から帰ってくるご先祖が入ってくる玄関や窓から、真菰の方向に床にしつらえます。近い故人を思うと、しんみりとせつない気持ちになります。

 もう一つ、きゅうりとナスを細かく刻んだものをお皿にのせて供えます。これは「水の子」といって身内ではない他者のためのお供えだそうです。「今年は震災で沢山の方が亡くなられました。その方たちのための供養として、お供えしてください」と山本先生。ですが、身内とはあきらかに分けて、別のところに供えるのだそうです。私の田舎では、この水の子をお墓のまわりに撒いていました。

お盆の盛り物は、仏壇の前の三具足(線香・光・花)に見立てて、灯籠草(ほおずき)と散華(さんげ)を盛り物の左右におきました。先祖との和合のために数珠も入ります。これまでの盛り物も神や先祖へのお供えの意味がありましたが、お盆はさらにその感を強く持ちました。そのため、家に帰ってすぐに盛り物をしてみるという気持ちにはなりませんでした。やはり8月のお盆の時にきちんと盛りたいと思います。本当に亡くなった故人や先祖が帰ってくるのか、見えないものが存在するのか、私には確信が持てませんが、身近な故人がいる今ではお供えをしたいという気持ちを強く感じます。室礼をする中で、自分自身の心の整理というか、気持ちを認識することができてくるのではないか、と自分の心を育てることに気付かされます。

 蒸し暑いなか、節電対策と熱中症対策どちらを優先するかで、迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。まずは自分の体調を第一に、無理せずに、が一番です。皆さん、お体を大切に暑い夏を乗り切りましょう。
(編集部 小林)

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山本三千子先生主宰
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