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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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(15)通草(アケビ)


 ぼくはお巡りさんに二度不審尋問された。最初は学生時代。全学連のクラス委員だったから、まあ、仕方ない。
 次はそれから約20年後の秋の暮れ方。福岡西部の糸島の浜辺に近い林中で、アケビの実を採っていた時だ。いきなり背後から誰何されて、びっくりした。お巡りさんは、ぼくの顔を見るなり「失礼しました。この辺、密航者が多いんです」と詫びた。人品卑しくないぼくのこと、当然である。(誰だ、「人品卑しからずなんて、その嘘、本当」と言った奴は)
 アケビは蔓性植物である。どこにでも生えていて、傍の木に絡み伸びていく。弥生も半ばすぎ、紅紫色の花をつける。目立たないからつい見逃すが、花に活けると、どこか淋しげな優しい風情をかもす。茶花として珍重される所以である。
 写真をよくご覧ください。紅紫の花に囲まれて、茶色の房状の小花の塊が見え隠れする。これが雄花で、超地味な花だ。見映えがいいのが雌花である。この紅紫色の3枚の丸いのは、花弁ではなく萼(がく)だそうだ。でも、この雰囲気とても素晴らしいじゃないか。幾つもの美女に囲まれて暮らす雄なんて。本望だよ、なあ。
 葉は掌のような5複葉が多いが、写真の通り3枚のもある。この葉も、花とよく合って、美の演出に一役かってくれる。

田中2013-03-1.jpg 器高12.6cm
器はぼくが初めて買った新羅土器である。それは戦後まもなくで、戦火をくぐり、大切に伝世された朝鮮半島の古器だ、というふれこみだった。そう言われると、須恵にはない端正な厳しさが輝いて見えたのだ。バカ高かったが、若さに任せて清水の舞台から飛び降りた。何のことはない、朝鮮戦争が終わって間もなく古陶磁がドッと入荷し始めると、暴落してしまった。早いが負け、の典型である。(福岡市在住)