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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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器高7.9cm






(19)檀(まゆみ)


「あっ、まゆみだ」。
ぼくは、ついつい大声で叫んでしまった。古い話だ。AKB48が騒がれ始めた頃のことである。初期のAKBに真弓って娘はいたかな……。なんてお考えになるのは馬鹿らしいですよ。ぼくはBAKA48のグループ長だもの。
 大声で叫んだのは、大分県由布高原の志高湖畔だ。冬枯れ一色のなか、淡紅色の花をたわわにつけた木がかなたに見えるのだ。季節がら、花なんてあるわけがない。じーっと見つめる。「あっ、まゆみだ」。見極めた刹那、つい大声を出してしまったのだ。
 檀の実の淡い紅は品がいい。ぼくは大好きだ。この実、やがて四つにはじけ、赤い種子が顔を出す。艶な花材である。
 檀はやたら澤山見当たる木ではない。福岡近郊では糸島半島の宮浦の小山の裾で見つけた。ここは、檀一雄が最晩年を過ごした能古島の対岸にあたる。宮浦から東へ海沿いに5分も歩くと、小田に出る。ここが、檀一雄の最初の妻が療養の甲斐無く病歿した所なのだ。
 代表作『リツ子・その愛』に続く『リツ子・その死』に因む地である。そして能古の家からは、ここら一帯が展望できたという。宮浦の檀がある小山も、である。
たなか251202.jpg 能古の丘に建つ家から、彼は糸島の海の入り日を見つめる毎日だったときく。玄界灘の夕暮れは、ことのほか美しい。晩秋から初冬にかけて赤く染まった波紋を独り静かに見つめると、寂寥感に胸を締めつけられる思いである。脱線した。まゆみに戻ろう。実がはじけはじめる頃の檀は、気品にみちて美しい。竜胆(リンドウ)に添えて、小枝一本李朝の小壷に活けてみた。(福岡市在住)

 落日に  いのちはじける  まゆみの実
                白澤良子