onlineロゴ2.jpg

骨董・古美術・工芸のポータルサイトmenomeonline

よみものロゴ.jpg

皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)


ozaki017.jpg
長辺25cm











(19)団扇入れ


 この器、団扇入れである。冷房など無い時代、夏にお客を迎えると、涼しげな絵を描いた団扇を、こんな器にのせて出すのが習慣だった。冷房の普及で、団扇入れは古民藝に昇格したわけである。
 ところで、団扇といえば、骨董好きは絵が気にかかる。戦後の一時期、琳派などの見事な絵の団扇紙が、まくりで売られていたようだ。今は昔の夢なのだが、万が一の夢を追うのが骨董好きの宿命である。
 まくりで出た書画を選ぶのは楽しい。値段がしれている。数選んでも、大して財布が傷まないからだ。ただし、古写経は安くない。
 ぼくも古写経のまくりに出遭うと、興奮する。借金も辞さない。自宅で額装して眺めるうちに、表装したくなるのが現れると、仏表具は安くないから、借金は倍増する。安倍内閣の年度予算編成の手本は、僕が創ったものだ。予算の約半分を借金で賄うのだから。
 しばらく前のことだが、奈良の骨董屋で仏教美術好きが手放した拓本の束に遭遇した。仏像が主体だが、白紙に墨で古体の文字が浮かび出たのが現れた。あっ!興福寺南円堂前に立つ、国宝の金銅灯籠の銘文ではないか。現物は興福寺国宝館に展示してある。その四面完全揃いだ。迷わず買った。
 額装して、書斎に四面並べると、壁面一杯、貫禄十分だ。鼻高々でいると、悪友が言う。「贋物だよ。国宝の拓なんて取れるはずがない」。

ozaki018.jpgしばし考えた。が、やはり本物である。国宝、国宝と騒ぎ出したのは、この半世紀ではないか。国宝の拓は幾らもある。根が安値で需要も少ない拓本を、贋造するバカが居るはずもない。
 花は高砂芙蓉という。可憐な一日花である。酷暑に活けると、一陣の涼風が吹き抜ける思いであった。(福岡市在住)

 ※まくり=表装する前の作品素のままの状態。