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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)


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器:壺屋焼徳利 花:椿・白式部











(20)鬼の腕


 皆さまは「鬼の腕」をご存じかしら。沖縄の壺屋で焼いた泡盛の徳利のことである。泡盛といえば琉球の地酒、その徳利が何で鬼の腕などと呼ばれるのかしら。
 琉球は島嶼王国である。島民は生まれつき操船が巧みだ。大陸やルソンなどを巡り、貿易で大きく稼ぐ。お宝船が海を往来するわけである。海賊には絶好の標的だ。そこで、船乗りたちは故郷の港を出る時に、わんさと泡盛徳利を積んでいく。平穏なら一杯きこしめして疲れを癒し、海賊に襲われれば、この徳利を握って応戦するのである。
 しっかり焼き締められた徳利だから、鉄のように堅い。勇猛な船人が持てば鬼に金棒である。名付けて鬼の腕という。
 この鬼の腕、すらりとした姿が美しいし、備前に似た肌だから、花生に頃合いなのである。古民芸店に出ると足が早い。
 沖縄が米国から返還されて間もなく、ぼくは壺屋に行ってみて驚いた。一軒の窯場の土塀にぎっしりと鬼の腕が塗り込められているのだ。数千本はありそうだ。有る所には在るものだ、と感嘆した。

ozaki119.jpg 数年後に、ふたたび那覇を訪れる機会に恵まれた。よーし、あの土塀を譲ってもらおう。
 早速、壺屋へと行ってみた。無い、あの塀が。きっと、先んじた奴がいるんだな。下司の知恵は後から、とはよく言ったものだ。
 花は、椿に白式部を添えた。ぼくの行く里山には、紫式部も白式部も自生している。白式部は紫式部より遅れて、年末から新年にかけて、実をつける。格好な鳥の餌らしく、たちまち実が食われてしまうようだ。(福岡市在住)

※鬼の腕としては細い方が評判がいいようです。ただ、どの太さまでを鬼の腕というのか……? そんな話、聞いたことがありません。