皆さま この器ご存じですか
田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)
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(16)根来の器
Jを小文字にしてjapanと書けば、漆・漆器を意味する。漆は日本のお家芸である。平安期から連綿と伝わる蒔絵なんて、世界中の憧れの的である。
漆器で、ぼくが好きなのは根来だ。簡にして素。素材のもち味を徹底的に活かすのは、和食と軌を一にする。なかでも、東大寺二月堂お水取りの練業衆盤、鎌倉期のいわゆる日の丸盆なんて、最高に美しいと思う。
ところで、ぼくは青山の骨董街で奇妙な根来を見つけた。写真をご覧下さい。直径が8.2cmほどの小器だが、実によく使い込まれている。写真では見えないが、横っちょに紐を通す小穴が2つある。いつも袂に入れておき、この穴に紐を通して帯にでも結んでおいたのだろう。煙草入れ? 当時、刻み煙草はきせると対にして持ち歩く煙草入れがあったから、ちがうなあ。誰に尋ねても用途不明である。
この紐通しの穴を、ぼくの巧みな工作で塞いで茶入れに使ってみた。これに合う牙蓋を持たないから、共蓋で使ったが、まあまあであった。
その蓋がこれまた珍奇なのだ。蓋の内側に紐がついていて、引っ張れるように出来ている。この器に入って、内から引っ張れるのは、昆虫くらいしかない。不可解である。
花は馬酔木(あしび)にした。二月堂お水取りの頃、常宿近くの飛火野に沢山咲いている。馬でさえ麻痺する木だ。鹿に於いておや。馬、鹿が寄りつかぬ花を使うのは利口者なんだぞ。心得ておけ。
□いま一度、この器の用途を考えてみよう。もしご存じの方は、目の眼編集部までご一報ください。なに、ぼくの答え?江戸の若旦那の媚薬入れと信じて疑わないね。(福岡市在住)
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