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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)






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(10)前田家伝来



 実は、ガラッパチのぼくにも、わけへだてなく接して下さるやんごとなき方がある。福岡に用があると、空港から吾が家に直行して、ぼくの骨董を眺めながら、ひとときの歓談で息抜きをして、皆が待ちわびる席に向かうのを常としていた。
 一方、ぼくの貧素な手持ちの骨董では、お目にかける種が尽きてきた。そこで、次は「まえだけ伝来」でいこうと考えた。
 その日が来た。ぼくの骨董棚にはおよそ7個の壺が置ける。そのド真ん中に種子島の能野の大壺を据え、左右に鎌倉期の瀬戸、常滑などの佳品で展示を固めた。
 やんごとなき客人は部屋に入るなり、能野の大壺をしげしげと眺め、不審げに「これ何?」。ぼくはアクセントに気をつけながら「まえだけ伝来です」。
 「ええっ!これが前田家伝来!?」もちろん加賀・金沢の文化を築き上げた前田の殿様所持と思っておられる。「間違いありません」と、ぼくは180度壺の向きを変える。
 確かに"前だけ"は伝来しているが、後半面は大破れに破れ、穴がぽっかり空いている。「やられたっ!」
 骨董仲間に「まえだけ伝来」という遊びがある。あまり普及していないようだ。適当な破壺が手に入りにくいせいかもしれない。
 この壺、半世紀以上も昔、鹿児島で見つけた。割れっぷりがいい。惚れ込んだ。が、価千円。高い。丼物なら何でも百円程度で食べられた時代だ。が、こうして遊んでみると、眼が高い買い物だった。(福岡市在住)

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