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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)






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今回花を活けた枡は5合枡のようです。
凝った人は「東大寺」など焼印入りを使いますが、
在福岡の貧乏人にはムリな話です。
我慢我慢! 
どうせ焼印なんて手に取って見なければ見えません

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(13)枡に



 面白い店があった。瓶詰の牛乳を種々置いているのだ。
 見ていくと、180ml入りが目にとまった。懐かしい。すぐに買った。
 えっ、何でそんな半端な量が懐かしいの? と不審に思われる方もあるだろう。
 古来、日本独特の度量衡(どりょうこう)の単位があった。量は升(しょう)、目方は貫(かん)、長さは尺(しゃく)で計る。一升の十分の一が一合、180mlである。以前は、牛乳も一合単位で売っていたのである。
 1960年、国際度量衡会議でメートル法に統一することが決まると、大抵はこれに従った。が、日本酒は敢然とこれを無視した。一升瓶はその象徴である。
 場末の酒屋を夕方覗くと、一合の酒を枡で買い、立ち飲みする人々でごったがえしている。一日の労働の疲れを癒すには、一番安上がりな策である。一方、祝事の席では、一合の檜の枡酒が幅を利かしているようだ。
 米などの量り売りに使った枡は、すっかり角が取れて真っ黒になり、野花を活けるにはもってこいだ。用が生んだ民芸ならではの味のよさである。
 だが、九州の民芸店に、そんな枡なんて出ない。買い手がないのだ。写真の枡は大枚はたいて東京で手に入れた。
 さて、花。月は弥生である。早春の花が出始め、運よく辛夷(こぶし)に出会えた。この花、モクレン科だけあって、蕾までは白木蓮そっくりだが、咲いてしまうと、いかにもしどけない。蕾から咲きかけるまでの三本を活けてみた。椿はうちの庭の紅侘助である。
 この椿、60歳代半ばで苗木を植えたのが、今は2階に届くほど成長してしまって、この一輪を採るのに手が届かず閉口した。ぼくも歳をとったなあ。(福岡市在住)


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こちらは漆を量り売りした枡。
「風袋九拾貳匁(もんめ) 正味壱貫目」と墨書きされています。
この枡の親類を益田鈍翁が花器に使っていた記録があります。
もちろん器はずっと見映えする立派なものですが。