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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)





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(16)菖蒲と陶製経筒



 宇宙探査で注目を呼ぶのは水の存在である。水さえあれば、その星に生物が存在する可能性があるからだ。水は生きとし生ける者の生命の源泉なのである。
 花を求めて山中をさまようと、ときに湖に出逢う。思わず水辺に駆け寄りたくなるのは、その故であろう。大分県の由布高原から九重山系にかけては湖が多い。由布院に滞在すると、よく湖探訪に出かけたものだった。
 手軽に行ける一つに、由布高原の東端、鶴見岳近傍の神楽女湖がある。何で神楽女(かぐらめ)なんて名付けたのかしら。
 平安時代、鶴見岳社で神楽を演じる女性が住んでいたからだという。人里離れた山中の湖のほとりに、女性が暮らすのは怖かっただろう。もっとも時代は平安、ぼくのようないい男が夜な夜な忍び込んで訪ねていったのかも……。
 ここが菖蒲の名所なのである。6月下旬が見頃だ。80種類もあるというから、自生の株を繁殖させたものではない。いわゆる菖蒲園だ。
 そんな次第で、左の写真の花は神楽女湖の菖蒲ではない。花好きの知人から戴いたものだ。ぼくは、菖蒲は紫花を以て最高と心得ているが、白花も純潔で決して劣らない。似合いそうな陶製経筒に活けてみた。
 九州は銅、陶、滑石の経筒が多く出土する。この経筒も詳細な経塚名は不明だが、九州の産である。全体に黒い斑紋があるのは、埋納の際、湿気で経が痛まないように、木炭でしっかり経筒を覆ったからである。
 この蓋を斜光線でよく見ると花がかすかに陰刻されている。さらに心眼を開くと、蓋の中央に如来様の坐像が浮かび上がってくる。これは幻影である。骨董好きなる者、吾が目で睨んで大枚はたけば、たとえ幻でも優品入手の悦びに浸りたいものである。(福岡市在住)

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神楽女湖