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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



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(21)水仙と弥生土器




 「雪中花」といえば、水仙のこと。花に乏しい真冬に咲くうえ、清楚で可憐な姿が素敵である。だから正月の花には打ってつけなのだ。
 昔話だが、カミサンがこぼす。「正月用の水仙、1本100円だって。安月給じゃ買えやしない」。何をッ、ぼくは近郊の糸島海岸の自生地に走った。50本は難なく採れた。「ほい、一金5千円也」。三国一の婿殿の典型例だ。なのにカミサンはバス代さえくれはしないのである。
 水仙の原産地は地中海沿岸だそうだ。それが、シルクロードを通って中国に。さらに球根が海流に乗って、日本に至ったという。だから、東支那海沿いの長崎や、日本海沿岸に自生が多い。全国的には越前海岸が有名だが、九州北部の海は日本海の入口だから、自生が目立つ。
 水仙は花に活けるとなると存外むつかしい。花だけ1本抜き取ってみると、控えめな姿なのに、凛乎(りんこ)直立して独立を譲らない。要するに、誰とでも仲良く愉快に騒ぐ性格ではないのだ。気むずかしい花である。
 参考までに、生花の諸先生の水仙の作品を写真で見ると、梅やミズキの新芽などを添えたものが少なくない。ぼくの感覚では、水仙のもつ純朴にして孤高な気品が損なわれている気がしてならない。花一輪だけを一種挿しにするのが、ぼくに向いた唯一の手法だと思う。
 こうなると器が問題だ。へたに民芸品を使うと、花まで泥臭くなる。古器がいい。中国の殷や周の觚(こ)や、日本伝世の胡銅鶴首などなら申し分ないが、持ち合わせがない。 
 思案するうち、昔買った弥生に気付いた。この弥生、ふくよかな姿に一目惚れした。三国一の男だって、惚れたら弱い。農耕が始まった頃の民芸雑器を、ついつい馬鹿高い値で買ってしまった。しくじった。(福岡市在住)


写真上)庭に咲いた水仙を一輪。
初花の頃は、葉の方が花よりも高いのです。

中)この器は古い古い民芸品。
何に使っていたのか、中は真っ黒だが、外は美しい。姿が気に入った。
買ったお店は骨董好きのサラリーマンが定年になって開いた店のようでした。
めぼしいものは数日でなくなりましたが、私は運良くこの弥生を買いました。
全体のふくよかな姿がわかるように、三本足のわっぱを作らせましたので、
ずいぶん高い買い物でした。

下)ひっくり返すと、印象がまったく違います。
マッシュルームを思わせるフォルムが魅力です。