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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



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(22)梅そして春日徳利




「東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」。菅原道真が太宰権帥に左遷されたとき、京の愛梅との別れを惜しんだ歌である。この梅、太宰府まで飛来したので、飛梅と呼ばれ、後裔が天満宮の神前を飾る。
 この故事に倣い、天満宮には広大な梅園がある。花が咲き揃うと、参道まで芳香が漂ってくる。梅こそは早春を象徴する花である。
 ところで、皆さんは日の丸弁当をご存じかしら。蓋を開けると、白いご飯の真ん中に梅干が赤く日の丸を描く。これだけが弁当のおかずなのだ。戦中の貧しい時代、梅干は誰もが重宝した。今も、梅干以外に梅酒、梅蜜、など、梅の実の用途は広い。梅こそは花も実もある良木である。
 ただ、花に活ける枝を採るときは、注意が肝要である。手入れが行き届き花付きのいい枝を採ると、大抵茎が緑なのだ。活けると花まで青臭い。しまった、と後悔する。
 言い伝えにいわく、「桜切るバカ、梅切らぬバカ」と。桜は切り口から黴菌が入りやすく、枯死の原因となる。梅は切るほどに、新しい枝が伸びて花付がいい。しかし、その枝は緑色を呈しているから、花には使えない。
 写真の小枝は、里山の谷川の斜面に生えている木から頂戴した。日当たりが悪く、茎に苔がつき始めている。人の手を介さないよさである。こんな花、探すのは骨が折れる。花は足で活けろとは、至言だとつくづく思う。
 器は奈良の春日大社の御神酒徳利だ。何よりも「春」の印判陽刻が嬉しい。春の花生に誂え向きである。「春」の徳利は、今も容易に手に入るが、無釉の胎土は白く粗くて味気ない。
 写真の徳利は昭和のものだ。骨董としては扱われない。当然だよ。ぼくは大正の生まれ、昭和育ちだ、俺、人間の骨董品じゃないんだぞ。(福岡市在住)


写真左上)花:梅 蕗の薹
器:春日大社 御神酒徳利。

左中)丸字に春の文字が印象的な春日大社御神酒徳利。
色合いも好ましい。

左下)春日野から春日の森を見る。
ここからは左手に髙円山、中に御蓋山、
左手に若草山が見晴らせる素晴らしい公園です。

下)太宰府天満宮と飛梅。
本殿右側にある早咲きの白梅で、例年1月末に境内で一番先に開花するという。
今年は寒が厳しく、2月13日に初咲きした。

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