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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



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(26)割れ壺に花




 とうとう歳の暮れ、12月に入った。
 そろそろ庭の白椿が……、と思って出てみると、図星であった。数輪採って、さてどうしよう。
 一輪はベッドに寝ながらでもよく見える床柱に懸けてみる。ぼくの家はベッドルームを割と広くとり、あげくの果て、介護スペースと称して、3畳の和室までつけてみた。(フローリングと畳に段差も仕切りもない)
 このアイディアは、大成功だった。寝ながらにして、床の軸や骨董が眺められるのである。老後の人生の楽しみにもってこいだ。
 ところで皆さんは、写真のブチ割れ花器にあきれられたことと思う。15世紀、瀬戸の尊式佛花器の断片である。
 窯の中で焼成中に倒れた。背の高いラッパ口が隣の器にぶつかり、大半が欠け落ちて、一見、亜字形花瓶の欠損品のように見える。
 どうやら運よく横倒れになったらしく、大きな円形の灰釉溜りが残っていたりして、意外な景色も見せてくれる。
 それにしても、こんな破損品は、ぼくのようなもの好き以外には買い手がないだろう。だから、値段も安い。喜び勇んで持ち帰った。
 こういうものを使いこなそうとすると、ぼくは俄然張り切って齢を忘れる。他人はやろうともしないことに挑戦するのだもの、結果は左の写真のとおりである。
 背後の軸について、ちょっと触れておく。戦前戦後、一世を風靡した歌人の吉井勇が、東大寺の壺法師、上司海雲さんに宛てた礼状である。べろべろに酔っ払うまでご馳走になったが、なんとか無事帰り着いたとある。
 あるとき、壺法師宛ての書簡を一束見せてもらった。その中に宛名書きが「奈良東大寺 上司海雲様」としか書いてないのを見つけた。住所が5字で済むなんて、何とも素敵だなーと感嘆しばし、であった。(福岡市在住)

尊式とは、古代中国の青銅器の一種である細長い筒状の容器で、口縁がひろがり、胴の部分は張りのある形をしている。それに似た花器を尊式、あるいは尊形と呼んでいる。
※亜字形花瓶とは、漢字の亜のように、両端が広く、そこからすぼまって、中央はまた広く張りのある形の花瓶。銅製、真鍮製、木製、陶器製などがある。仏具だと華瓶(けびょう)とも呼ばれる花瓶にも似た形が多い。

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