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皆さま この花ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)

銀竜草花.jpg花:銀竜草(ぎんりょうそう) 器:(高5.7cm)








(3)銀竜草(ぎんりょうそう)


火の国九州は火山と湖に恵まれている。大分県の九重連峰(くじゅうれんぽう)の東端、別府湾を眼下見る鶴見岳と、その西隣の由布岳の中腹にも、山の湖が幾つかある。志高湖(しだかこ)もその一つ。由布院からバス便もあるので、ちょいちょい行く。6月、隣の神楽女湖(かぐらめこ)は菖浦が美しい。
神楽女湖.jpg菖浦が咲く神楽女湖 先年、神楽女湖で菖浦を眺め、林間を抜けて志高湖畔の森で弁当を開いた。すぐ前に妙な花がある。茎まで真っ白。花は馬面でユーモラス。白馬の騎士である。「銀竜草だよ、葉緑素がないことで有名な……」。カミサンは素っ頓狂に叫ぶと、根から掬い上げてしまった。この草、腐生植物、すなわち何か腐ったものを栄養に育つのだ。ふかふかの腐葉土にちょんと乗っているから、素手の一掬いで採れた。
 折角だ。カメラに収めよう。そしてハタと困った。土を落とすと銀竜草が壊れそうである。結局、黒い土のまま弥生の広口小壺に収めた。この弥生、店主は遠賀川式土器(おんががわしきどき)といったが、考古学に暗いぼくには当否不明だ。
 この銀竜草、翌年の6月、また同じコースを歩き、同じ森陰で弁当を開くと、なんと、同じところに素知らぬ顔で生えているではないか。森の精かしら、はたまた経帷子(きょうかたびら)着た花の幽霊か……。(福岡市在住)

志高湖.jpg志高湖から左が由布岳、右が鶴見岳